怪しく光った
「お邪魔します」
私がゆっくりと扉を閉めると、いっきに真っ暗になった。光がどこからも差し込んでこないので、まるで夜のように暗闇になったんだ。じっとしていると、目が慣れてきて、玄関の様子が、映りこんでくる。
まず、汚かった。誰も掃除をしていないのか、紙の切れ端や、ゴミが色々な場所に積もっていて、強い埃の匂いが鼻をつく。
足元は、多分コンクリートで、靴は一つも置いていない。その先に、段差があって、廊下が続いている。横には靴箱のような年代物の木で作られた入れ物があるけど、もうボロボロに壊れている。蜘蛛の巣が、貼っていた。
「この雰囲気だと、出そうだよね」
マユちゃんは心底楽しげに言う。
「お化けが?」
「ワクワクするね」
「そうだね」
私は多分マユちゃんとは違う胸の高鳴りを聞いている。
「靴は脱がなくても大丈夫かな」
そう言って、足を踏み出すと、段差を超える。
ギシッ
と、床の板が凹み、音が鳴る。
「抜けちゃいそう」
「私達は、軽いし、平気だよ、行こう」
ギシギシと音を立てながら、廊下、らしき道を進んだ。真っ直ぐ行った先に、仄かな光が見える。まずはそれを目印とした。途中に、扉や別の道らしき場所は見当たらず、不気味なほど真っ直ぐに廊下は続いていた。時々、何かを踏みつけて、骨が砕けるような音が響く。その音に、私は飛び上がりそうになるけど、マユちゃんが笑うので、途中から必死に我慢する。
光の元へ辿り着くと、その光は、天井から緩やかに差し込んでいた。見上げると、天井に小さい穴が空いていてそこから、光が入っているのだ。
道は、そこから二手に分かれていた。そのまま真っ直ぐと、右への広い道だ。
「どっちに行く?」私はマユちゃんに問う
「カナちゃんが決めていいよ」
「えっと、じゃあ、まずは真っ直ぐで」
「戻るって、言うかと思っていたのに」「もう覚悟を完了しているから、それは、……多分言わない」
マユちゃんは小さく微笑むと、進み始めた。すぐに壁が目の前に出現して、その右側に、扉があることに気づいた。
「入るよね?」一応聞く。
「もちろん」
ドアノブを回すと、金属が擦れるような音を鳴らして、開いた。――瞬間に、もの凄い悪臭が、鼻をつく。粘土を腐らせたような、不快な匂いだった。
「何、この匂い……」
「理科室を、十倍臭くした感じだよね」
その例えは、近いようで近くないような、まぁそれは置いといて、私はその匂いの威圧感に、思わず後退してしまう。
「カナちゃん、戻らないんでしょ?」
「う、まだ、戻るって、言ってないよ」
「じゃあ、入ろうか」
マユちゃんが扉を限界まで開くと、更に匂いが増した。頭がクラクラとする。さっきの光がどこからか反射して、この部屋を照らしていたから、中の様子はわかる。
小さい部屋で、ベッドがあり、その横には、潰れかけた机が置いてある。窓はあるけど、雨戸が閉められていて、さび付いている。私の力では開きそうにない。
それよりも、違和感は、この部屋に入った時に気づいた。
「これ、畳?」
「う、うん。しかも、窓には、障子がある。……ビリビリに破けているけど」
この部屋は、洋風の屋敷には似合わない、和式だった。床は畳み、窓には障子、よく見ると、押入れが部屋の右側にある。押入れの引き戸は破け、中が見えたけど、何も入っていない。
この部屋だけ、別の家から拝借して、くっつけたような違和感を持っていた。
「面白そうなものある?」
マユちゃんはベッドの上を見てから、押入れを探り、机を見た。
「何も無い。匂いだけ。この部屋は、駄目かな。……あ、もしかして」
そう言って、マユちゃんはポケットに手を入れると、細い棒を取り出した。
「何それ」
「ペンライト、もしものために、持ってきたの」
パチっと音がして、拳ほどの光が、壁に張り付く。マユちゃんは土下座するみたいにしゃがむと、ベッドの下を、覗いた。
「ちょっと、マユちゃん、何しているの! 床、汚いよ」私は驚いて声をあげる。
「お兄ちゃん曰く、大切なモノは、ベッドの下に隠す、って聞いたことがあるから、もしかしたら、面白い物があるかも」
マユちゃんは動かなくなる。何も無いよ、早く帰ろうよ、と心の中で呟いた時、「カナちゃん、来て!」とマユちゃんは大声を上げる。それに驚いて私はビクッと体がしなる。
「どうしたの?」
「見て、ほら、こんなの見つけた!」
ベッドの下にマユちゃんは手を伸ばすと、何かを掴み、それを床にばら撒いた。
白い。
細い。
どこかで、見たことのある、……それは。
「あ、これが一番大きい」
ゴロンと、塊を最後に転がした。
穴が二つ、とても印象的だった。
骨だ。ライトに照らされて、それは怪しく光った。「ぎゃあああああ」




