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めたもるふぉうぜ  作者: 八澤
お化け屋敷
11/24

少し変わった


 火曜日にマユちゃんの家に遊びに行ってから、マユちゃんは少し変わった。


 マユちゃんが戻ってきてからは、学校では、私とマユちゃんは昔みたいに一緒にいることが少なくなっていたのに、今は、マユちゃんは休み時間や授業の合間でも、いつも私に寄り添うようにやってきた。それは、遊びに行って首を絞められそうになった時と違い、無邪気な子供みたいに(子供だけど)。二人組を作る時も、マユちゃんは今まではスクールカーストの低い、友達のいないような子と組んでいたのに、今は即効で私の元にきた。

 その変わりように、最初の頃は、あの時のことが脳裏をかすめて私は少し嫌がっていたけど、段々と強制的に接してくるうちに、そんな想いは影を潜めていった。

 本当に、昔に戻ったようで、なんだか懐かしかった。あの頃は、毎日のように一緒にいたんだなーと、感嘆を覚えた。

 クラスの子も、マユちゃんの変貌に、内心は驚いていたけど、それに巻き込まれたくないのか、下手に接触して来る人はいなかった。先生も、何も口に出してはこない。私だけが、マユちゃんと一緒に行動している。


 そして、気がつけば金曜日を向かえ、明日は休みだ。数年前は、土曜日も学校があったらしいけど、週休一日とか、可哀想。今の時代に生まれてきてよかったと、私は思う。

 金曜日の放課後、私は塾があるので、寄り道せずに真っ直ぐ帰ることにしている。すると、靴を履き替えたところで、肩を叩かれた。

「一緒に帰ろう」

 振り返らずとも、その声と、ここ数日の出来事で、マユちゃんが背後に立っていることがわかる。

「いいよ」

「今日は塾なの?」

「うん」

「大変だねー」

 特に大変そうだとは感情をこめずに、マユちゃんは言った。

 一緒に帰るといっても、私とマユちゃんの家は、ほぼ反対の位置にあるので、学校から出て、数十秒しか話すことが出来ない。それでも、一緒に歩いた。特に会話はしない。ただ、その時間を噛み締めるかのように。


 マユちゃんは、本当は夜中の真っ暗なお化け屋敷を探検したかったらしいけど、私はそんなの死んでも嫌だし、夜に家を抜け出す自信が無いので、昼間に、お化け屋敷に忍び込むことにした。

 もし人が住んでいたら、すぐに謝って出る、という条件の下、私は渋々認めた。まぁ、本音は、嫌がると、またあの時のマユちゃんになって首を絞められると思い、それが恐かったからなんだけど。

 約束通りに、お昼ご飯を食べて、私は一時に公園に着いた。もうマユちゃんは公園の中にベンチに一人で座っていて、私の姿を発見するなり、手を振りながら公園から出てきた。いつもはスカートを履いているのに、今日は細いジーンズで、足が長く見えたけど、実際に長かった。隣に立つと、私の足の短さに絶句した。上にはパーカーを着て、黒を基調とした服装なのに、地味とは思えなく、マユちゃんには良く似合っていて、大人っぽく見えた。そのまま雑誌に載っていてもおかしくない格好だった。

 マユちゃんはもの凄く楽しそうに、歩く。心の底からウキウキと、「幽霊とお話できるかなー?」って語りかけてくる。反対に、私は全力で帰りたかった。お化け屋敷に近づくたびに、あの窓から見える、ずっと変わらない景色が脳内で蘇る。人の気配がしないあの家だけど、外観の雰囲気だけで絶対に何かあると思ってしまう。例えば、頭のおかしい人が住んでいて、中に入ってきた人間を殺して、……食べちゃう! とか、変な人が、金槌片手に、拷問しているかも、とマユちゃんに言っても、「なおさら見たい!」と火に油だった、……何故?

 そんなこんなで、気がついたら、あの古びたアパートを通り過ぎ、その先にある、お化け屋敷の前に辿り着いていた。隣で、マユちゃんは一人緊張しているけど、私も恐怖で震えていた。今は、昼間で雲一つ無い晴天のはずなのに、このお化け屋敷だけ、世界が違う。すれた風が、屋敷の背後から靡いているようで、埃のような匂いが、つんと鼻をつく。

「まずは、これを使います」

 そう言って、マユちゃんがポケットから取り出したのは、白い野球のボールだった。ご丁寧に、自分の名前が書いてある。「そのボールは、何?」

「投げるの」

 マユちゃんは、男の子のように振りかぶると、ボールをお化け屋敷に向かって、投げた。お庭を越えて、その先の玄関付近に落ちると、転がってどこかに消えてしまった。

「じゃあ、挨拶に行こう」

「ちょ、ちょっと待って、今のボールは?」

「もしも、この中に人が住んでいて、無断に入ると、やっぱり、怒られるでしょ。だから、まずは確認。今から、インターホンを押して、人が出てくるか調べるの。ボールは、言い訳。もしも人が出てきたら、ボールがこの敷地内に入ってしまったので、探していいですか? って聞くの。特に理由も無いと怪しまれるでしょ」

 それなりに考えてきたのかと感心していると、マユちゃんは進み始めた。私の、手をつかみながら。「待って待って、まだ心の準備がッ」

「大丈夫、お化けが出ても、私が守ってあげるから」

 そう言って私の意見など聞かずに、マユちゃんは強引に私を引っ張る。私は仕方なくそれに続く。扉は、高級そうな形をしているけど、ところどころに傷があって、金槌で叩けば、簡単に割れてしまいそうだった。

 ずっと使われていないようなインターホンのボタンが右側に張り付いている。これ鳴るのかな? と呟く前に、マユちゃんが電光石火の速度で押してしまった。

 ピーン

 と、聞いたことのないような音色が、屋敷中で響いている。その音の大きさに、マユちゃんはビクっと体を揺らし、私は不安で辺りをチラチラと見回してしまう。ふと、背後から、視線のようなモノを感じ、はっと振り返るけど、……誰もいない。

 人が出てくる気配が無いので、マユちゃんはもう一度押した。ピーン

 誰も、出てこない。

「すみませーんッ!」

 マユちゃんが大声を出す。ドンドン! と、扉を叩いた。私も「誰かいますかー?」と、声を出したけど、反応が返ってくることは、無い。

 十秒ほど、しんと静まり返った時間が続く。まるで、時が止まってしまったかのように、何も動かなくなる、聞こえなくなる。匂いも、わからなくなった。

 その中で、私はそっと首を横に回し、マユちゃんを見た。

 瞬間に、私は声が出せなくなる。

 何故なら、隣にいる、マユちゃんの顔にあるはずの表情が……なくなっていたからだ。

 目、鼻、口、耳、それら全てのパーツはあるはずなのに、そこから、表情が消えていた。無表情とはまた違う、別の姿が、そこにあった。

 その中で、口元だけが、つりあがっていく。皮膚がにゅるり、と動き、振動を伝えて、唇が開くと、その先が、伸び上がっていく。

 笑顔の、はずだった。

 それなのに、私は怖がっている。

 背中に、冷水を振り掛けられたかのように、寒気がすっと生まれた。

 目が離せない。

 唾を飲み込むことすら出来ない。

 ぎりぎりのところで、息をすることが、できる。

 ――でも、

 もしも、今、マユちゃんが、私に、呼吸することを、やめてと、言ったら、私は、私は……辞めてしまうかもしれない。

 そうするほどの、何かが、ある。「どうしたの?」

 マユちゃんが、いつの間にか、私の顔を真っ直ぐに見ていた。「な、なんでもない」私は、声を上げそうになるのを必死に堪えた。「人、出てこないね」

「では、入ります!」

 マユちゃんがすっと手をドアノブへ伸ばす。

 回す。

 鍵は、……かかっていない。カチャっと小さな音を立てて、扉は開いた。マユちゃんは中を覗き、「すみませーん」と小さい声を出す。「いないね」「そうだね、でも……」

「いやなの?」

 ぎゅっと、私の手を握ってくる。

 もう、何を言っても無駄だと私は悟って、首を横に振る。マユちゃんはそれを合図に中に入ると、私も後をついていく。


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