第七話 発表会は、聖女ごっこ
ついにこの日が来た。
季節は既に初夏を過ぎ、夏の気配が色濃くなっている。
来る日も来る日も、練習してきた。
臆することはない。今日、我ら子猫組女子は一丸となり、保護者と先生方の称賛と感涙をかっさらうのだ。
八人が纏うは、聖女の白衣。
右手には、聖女の杖。
全て、先生方の血と汗と涙と残業のおかげだ。
設定はこうだ。
崩壊寸前の結界を前に、成す術なく立ちすくむ街の人々。その前に現れた一人の聖女。だが一人の力では崩壊を防げそうにない。大聖女は全ての聖女に思念伝達を行い、皆の力を合わせて崩壊を防ぐ──。
という実話だ。
いや、先生方はそんなことは一言も言ってないが、私の中ではそうなっている。こういうのは気分が大事だからな。
ほら、我々への期待ゆえ、すでに客席がざわついておる。しかし……母君たち、きゃーきゃーうるさいな。
先生のアナウンスが始まる。
「次は、子猫組女子のお遊戯をご覧ください。みんな、この日のために一所懸命練習してきました。可愛い聖女たちの登場です!」
拍手に迎えられ、子猫組の聖女が舞台に降り立つ。
我らが圧巻のパフォーマンスに刮目せよ!!
……と鼻息荒く舞台中央に進み、私は愕然とした。
目の前の来賓席に、法皇代理のゾランが座っているではないか!
あっ!さっきの「きゃーっ!」はそなたが登場したからか!くそ、話題をさらうでないわ!
そしてその隣にはなぜかメガネ。
……そなた、有休申請に馬鹿正直にも発表会と書いたんではないだろうな?!
そんなもん、詳しく事情を聞かれるに決まっておろう?!ブラック労働なめんな!
あっ!目を伏せやがった!
……まあ、来てしまったものは仕方ない。
これで何がバレるでもなし、子猫組の愛くるしさに胸きゅんして帰れ。
「時は皇暦七百八十九年。我々は未曾有の危機に陥っていた」
……先生?
「迫り来る厄災を前に人は何もできないのか。みなが絶望に打ちひしがれていた時、女神様が大聖女ミラをお遣わしになられたのです!」
おい!そんなナレーション初めて聞いたわ!
いや、だがやることは同じ。
先生の合図で可愛く杖を振るのがミッションだ。
子猫組のみんな、落ち着け。
「みんなー! このままじゃ結界がこわれちゃう! けっかーい?」
「こーちく!」
ここで皆が大好きなアニメ、魔法少女ルシュトナ・トロイツァの音楽が流れる。
私は見たことがないのだが、今度鑑賞の機会を設けよう。
「とんとんとんとんだーいちゅき、こんこんこんこんだーにちゅき!」
ここで杖をふりふりふりふりー!
おお!子猫組の全員が振れておる!
特にクララ、そなたの成長っぷりは目覚ましい。
あの模擬ブラック労働により聖女の演技に覚醒したとしか思えん。
聞け!あの惜しみない拍手の音を!
みなが我らの偉業を褒め称え、咽び泣いておるわ!
ありがとう、ありがとう、ありがとう。
さて、あとはお辞儀をして舞台袖に引けばよいのだったな。
横を向こうとして──クララが叫んだ。
「きんきゅー!」
……何?
「おしょいわ!にふんでこい!」
……はい?
「ほーかいれべるよん!」
なななななななんで今それをっ?!
クララ天才か?!
いや!だが今はマズいのだ!ゾランが!ゾランが見ておるのだー!
「しょれはまずい!」
そう、マズい……って、おさげのそなた、部屋では聖女ごっこしなかったではないか?!
「ぱりーん!」
あっ!そなたまで!
「しねんでんたつ!」
滑舌よいな!そなたら揃いも揃って役者だな!
「みんなでー!」
「けっかーい!」
「こーちくー!」
「だーいちゅき!!」
ふりふりふりふりふりふり!
今度こそ、割れんばかりの拍手に包まれる。
誇らしげに前を向く子猫組のみんな。
そなたたちの成長が、私は嬉しい。
だが……なぜ今なのだ!
ほれ、ゾランが拍手しながらも、メガネに何か耳打ちしておるではないか。
どう考えても内部事情に詳しい者がいるとしか考えられないからな。
とは言え、それで子猫組を疑うのは早計というもの。ナレーションの先生も設定に凝っていたし、このこども園は、聖女が身内にいる者も多い。こういう劇だと思うのが普通の反応だろう。
……ふぅー、焦ったわい。
さて、勝利の凱旋だ!楽しい昼餉が待っておるぞ!
……だが、何やら胸騒ぎがするな。
あいつに"普通"が通用するのか?
何事も起きなければよいのだが……。




