第十七話 転生聖女、円盤を手に入れる
朝目覚めて、私は歓喜の声をあげた。
枕元には綺麗にラッピングされた箱がひとつ。
精霊さんが、来てくれたのだ!
まあ、私はいい子だから当然といえば当然なのだがな?
一週間前までに、聖堂にお手紙を出せばいいと言われたものの、お手紙ポストに入れるのは信用ならぬ。ゆえに直接ゾランに押し付けたのが功を奏したのかもしれん。あんなやつでも一応、聖堂のトップだしな。
私は興奮に体を震わせながら、ラッピングを外した。現れたのは、魔法少女ルシュトナ・トロイツァの円盤ボックス。箱には、ピンク、黄、青の可愛らしい少女三人が描かれている。
黄色の下にはルシュトナ・ルメナ、青色の下にはルシュトナ・モドラの名が踊る。
なんと、本当にロージュナタ以外が存在したとは!
私は小躍りしながら、こども園に向かう準備をする。
年末年始はこれを見て過ごすのだ!
ちなみに円盤特典はレターセットだ。ゾランに手紙でも書いてやろうかな。
*
(エミル!そなたのところには精霊さん来たか?)
(……いや、まあ、来たけど)
(ほんとか? 私のような"よい子"のところに来るんだぞ?)
(それなら僕のところに来ないはずがないよね)
(そなた、自己評価高すぎやしないか?)
(君ほどじゃないけどね)
バチバチと睨み合っていると、今日も先生から引き離される。
ん?この先生は初めて見るな。
男の保育士さんとは珍しい。
(ジェレン、生誕祭のプレゼント交換はできたのか?)
エミルがディノザーヴリ戦隊のソフト人形を触りながら聞いてきた。私はピンクの杖をトリケラブルーに向ける。
(一般論だと言うたであろう? 恋人ができたら交換するから、誰か紹介しろ)
(僕の評判が落ちるだろ?)
(あぁん? どういう意味だ)
杖をエミルの額に当てると、やつはトリケラブルーの足を、私の頬にぐりぐりと押し当てた。
(君がまともな恋人になるとは思わないからね)
(失敬な。ただ今絶賛練習中だぞ? 妙齢の乙女になる頃には、なかなかの経験値になっているはずだ)
エミルは宙を仰いで、鼻で笑う。
(誰と何を練習してるんだ?)
何って……メガネと名前を呼び合って、ヨーヨー釣りして、かき氷食べた……?
プレゼント交換は、ありゃダメだ。ノーカンだ。
……って、こんなこと言えるか!
私が答えられないでいると、エミルは勝ち誇ったように胸を反らせた。
(ま、今生で常識を身につけられたらいいね。そしたら、来世くらいで恋人できるんじゃない?)
おのれ、言わせておけば好き勝手言いやがって。
だが、なんか心配になってきたぞ。
(エミルは、どんな女子が好きなんだ?)
(うわ、めんどくさ。そういう話は女同士でしてくれよ)
(まぁ、そう言わずに)
だがエミルはうんざりしたように肩をすくめて、思念の回路を切った。
あっ、こいつ。逃げやがった。
私はティラノレッドをつかむと、トリケラブルーに蹴りをくらわせた。
「おしえろ!」
「いやだね!」
「けち!」
「こらー! 二人とも! ケンカしないのー!」
ちっ、貴様のせいで、また怒られたではないか!
今度こそ教室の端と端に分けられた私とエミルは、
最初の五分こそ大人しく一人遊びをしていたが、その一秒後には聖力ボールを投げ合っていた。
(食らえ! 消える魔球!)
(聖力なのに魔球ってなんだよ)
(アニメで見た)
聖力で作ったボールをぶつけ合うだけなので、まわりの人にはエアードッジにしか見えない。
先生は呆れたように肩をすくめただけで、もう何も言わない。
しかしただ一人、こちらの様子をじっとうかがっている人間がいた。あの、新しい男の先生だ。
エミルは聖力を消し、一人遊びに戻る。その手には、またトリケラブルーが握られている。
(……やっぱり。あの男、多分王室付きの神官だ)
私はちらりと先生を見た。
なるほど。確かにそう言われれば、顔が凶悪だ。神官であるなら頷ける。
にこやかなお兄さん先生マルクとは大違いだ。
……だがまあ、私には関係ないな。
(つまり、そなたを監視しにきたんだよな? よし、悪行の数々を告げ口してやろう)
エミルは深いため息を吐いた。
(違うよ。僕が法皇の大聖紋を持っていることを、疑ってるんだ)
(ヘマしたな?)
(ゾランにバレてる君に言われたくないんだけど?)
いちいち腹立つやつだな。
しかし、そうなると厄介だな。
エミルはいいとして、私まで巻き込まれるのは御免被る。
(理解した? 僕が身バレしたら、君も困るだろ?)
それはもちろん困る。
(よし、そなた転園しろ。それで解決だ)
(解決? 僕が法皇になったら、必ず君を連れ戻すけど?)
ぐぬぬ。そうであった。こいつはそういうやつよ。
(まあ、バレないように協力してよ、大聖女さん)
エミルがにやりと笑い、トリケラブルーが手を振る。
しかしなんでエミルの法皇紋を探るんだ?王子が法皇になったら困るだろうに。あれか?跡目争いってやつか?……王族ってのも大変だな。私は庶民でよかったかもしれん。
まあ、日頃の行いだな。
(その顔、腹立つんだけど)
(わたしはよい子だからなぁ)
まあ、仕方あるまい。私が凶悪神官の目を逸らしてやろう。この美幼児パワーでな。
「せんせー」
私は凶悪神官の膝にごろんと寝転んだ。
案の定、子どもに慣れていない神官は、びくりと体を揺らした。
「なんだ?」
「あーそーぼー」
「……何するんだ」
「わたしがろーじゅなたで、せんせーがわるもの」
反論の余地を与えず、凶悪神官の頬を両手で挟んでタコの口にする。私が大笑いしていると、子猫組の皆もなんだなんだと寄ってくる。
ほれ、エミルだけ見てては、立派な保育士さんになれぬぞ?
「わぁ、こういう時に男の先生いると助かるわー」
「ほんと、便利ねぇ」
先生方、本音が出ておりますぞ。
「せんせー、おそとであそぼー」
「おにごっこしよー」
「ぷろれすしよー」
遠巻きで見守っていた子猫組の男子連中が、こいつは遊んでくれそうだ、とターゲットロックオン状態になる。
「ユレ先生、連れて行ってあげてください」
「……はぁ」
凶悪神官ユレは、両腕に男の子二人を抱え、五人に周りを囲まれながら外へ出て行った。
私は得意満面でエミルを振り返る。
(どうだ? 私の美幼児パワーは!)
(美幼児関係ないけど、まぁ、助かったよ。ずっと見られてたら息が詰まるからね)
(ふはは。これからも私を頼るといい。礼は恋人候補の紹介でいいからな!)
(また、それかよ。貴族の嫁になりたいわけ?)
(いや? だが貴族と庶民というシチュエーションはよくあるよな? 障害があるほど燃えるというではないか)
(わざわざ障害を作らなくても、君自身が障害みたいなもんだろう)
はあぁぁぁぁぁぁぁあ?!
身バレしろ!




