第十六話 □プレゼント交換をする!
□プレゼント交換をする!
祝福授与が終わったのは、夜の九時を回っていた。
裏ホールにはもうほとんど人がおらず、しんとした寒さが落ちていた。
「さすがに疲れました」
椅子に腰掛け、メガネが苦笑を浮かべる。
「あのピンクの光はジェレンですよね?」
ゾランにもらった石のことを説明すると、メガネがぽんと手を打った。
「そうそう、私からもプレゼントがあるんです」
メガネはローブの袂から、一本のリップクリームを取り出した。ピンクのケースに花の模様が入っている。
「お子様にも安心安全の成分です。ほら、カサカサですよ。塗りましょうか?」
思わず頷くと、我が意を得たりとばかりに、蓋を外し、私の唇にポンポンと広げていく。
「寒いですからね。切れると痛いです」
「……うん」
お礼も言えず、私はただ口をつぐんだ。
どんな反応をすればいいのか、わからなかった。
なんとなく、塗ってもらったことが気恥ずかしい。
でも、こいつの中では、ただの世話なんだろうと思うと、照れるのも笑うのも違うような気がする。
私は胸ポケットを上からそっと押さえた。
精霊石、渡すべきだろうか。
対厄災聖術を織り込んだ自信作だが……。
重い、だろうか。
「精霊さんにプレゼントをお願いしましたか?」
「うん」
「そうですか。明日の朝が楽しみですね。私などは、いい子にしていても何もいただけませんから」
「……うん」
そのまま会話が途切れ、誰もいなくなったホールの冷えた空気にぞくりと身が震えた。
「寒いですか?」
「うん」
「抱っこしましょうか?」
何も答えないでいると、膝に乗せられ、ローブで包まれた。
……あったかい。
慣れた匂いと体温に、思わず目を閉じる。
「お母様、遅いですね。事務方で何かあったのでしょうか」
……そうだ、メガネは疲れてるんだ。
早く解放してやらないと。
「じむしょ、いく」
「はい、お連れします」
「いい。いける」
だが、メガネは私を抱き上げた。
「こんな時間に、一人でお外に行ってはいけません」
外と言っても渡り廊下なんだが。
過保護なやつめ。
それでも胸がほっこりと温かくなる。
扉を開けると、ふわりと雪風が舞った。
いつの間にか、降り始めていたらしい。
また世間の恋人たちが喜ぶと思うと腹立たしいが、私も今は温かい腕の中にいる。
……ただの、元部下だが。
「年末年始は事務方が休みになりますし、久しぶりにお母様とゆっくりできますね」
聖堂はまた忙しい日々の始まりだ。
メガネはどうするんだろう。
「私は騎士団の方で地方勤務しますので、また年始にお会いしましょう」
……騎士団。
年始まで会えないのか。そうか。
事務所の前に着くと、メガネは扉を開けてくれた。
自分が顔を出しては皆が気をつかう、と中に入らず踵を返す。
その背を見ながら、思う。
……結界が崩壊したら。
もう、会えなかったら?
「まっ……!」
引き止めようとして気だけが急き、体がぐらりと傾く。気づいた時には地面に打ち付けられていて、胸ポケットから精霊石が転がり出た。
「ジェレン!」
メガネが慌てて戻ってきて、助け起こしてくれる。
「大丈夫ですか? お怪我は?」
私はそれには答えず、メガネの足元を指差した。
精霊石がきらりと光る。
「……それ、やる」
メガネは不思議そうに石を拾い、じっと見つめた。
その目がすぐに驚愕で見開かれる。
「……これは」
「じぇれんの、だけど、あぶないから、もってけ」
「いえ! こんな貴重なもの、いただけません。ここまで精緻な織り……初めて拝見いたしました。私など、下賜されるに値しません」
「じゃあ、そこにすてておけ」
「聖下!」
メガネは私の元に跪いた。
「我が魂は聖下とともに。精霊石、確かに拝受いたしました」
これは……。
……ちょっと、重すぎたか。
まあ、いい。
毒を食らわば皿までだ。
私は彼の顔を上げさせ、額に額をつけた。
(我が魂に添う者に、大聖女の祝福を授けん)
私的な思念伝達は、法皇以外初めてだ。
なんで……こいつなんだろう。
至近距離で視線が絡まり、私はすっと身を引いた。
「……聖下」
「おやしゅみ」
私は事務所の扉に手をかけた。
ふと振り返ると、彼はまだ跪いたまま、深く頭を下げていた。
雪が肩に薄く積もっていく。
私はため息を吐いて、部屋に入った。
□プレゼント交換をする!(ただの下賜になった)




