第十四話 エミルがこども園にやってきた
秋が深まり木々が紅葉に染まる頃、エミルがこども園にやってきた。
王子だということは園長しか知らず、園児の我々はただの新入りと思っている。
つまり──特別扱いは不要だ。
「よお」
スカートのポケットに手を入れ、街のチンピラよろしくエミルの前に立つ。
「わたしはじぇれんだ。あしょんでやるから、つらをかせ」
「こらー! ジェレンちゃん!? お友達と遊びたい時は、あーそーぼーでしょ?!」
先生に叱られてしまった。
ちっ、仕方あるまい。
「あーそーぼー」
棒読みで誘うと、「いーやーだー」と返る。
なんだと、こら。
(貴様、私の誘いを断るというのか?! せっかく心細いと思うて、声をかけてやっているというに!)
(悪いけど、僕は心細くないんでね。それに君といたら、バレる確率が高まるだろ? なんせ君は抜けてるからな)
(なんたる侮辱! ならば違うこども園に行けばよかろう? なんでまたこんなとこに……)
そうだ。考えてみればおかしい。
市井の暮らしを見るためと言っても限度があるだろう。どうしてわざわざ聖堂のこども園なんかに入るんだ?
……ははーん?
(やっぱりそなた、私のことが)
(好きじゃないからな?)
(またまたー。モテる女はツラいのう)
(脳内花畑は、よそでやってくれないかな?)
(なんだと?)
この間数秒、私とエミルは睨み合ったまま微動だにしていない。
危険を察知した先生が私を抱っこして、クララの前に置く。
「お友達とは仲良くでしょ? クララちゃんと遊んだら?」
おお、クララ。今日も可愛いな。
折り紙をぐちゃぐちゃにする手のなんと愛らしいことよ。
私も折り紙ケースをあさると、底の方からピカピカ光るピンクの折り紙が現れた。
その色に、一瞬で心を鷲掴みにされる。
これは……まるで魔法少女ルシュトナ・ロージュナタの杖の色ではないか。
これを細長く丸めれば、私も魔法少女になれるのでは?!
早速折り紙を棒状に巻いていく。
一枚では細いので、箱にあるだけ取り出した。
閃いた!
魔法少女になるなら、ちゃんとした杖の機能を持たせねばならん。
私はすぅ、と息を吸い込んだ。
「しょーらーにー、かがーやくー、めーがみのー、みわーざー」
歌いながら折り紙を丸めていく。
こうやって歌うことで制作物に聖力が宿るのだ。
まあ、今はそんなことせず精霊石から直接聖力を付与するんだが、大昔はこうやって作っていた。
懐かしいのう。
「かたーん、とん、かたーん、とん。いっしきもんよう、かたーん、とん」
「かたーん、とん、かたーん、とん」
おお!クララも杖を作るのか?
金色とはナイスチョイスだぞ!
ご機嫌で丸めていると、手元にふっと影がさした。
(何やってんだよ)
エミルの不機嫌そうな声が落ちる。
(おお、そなたも作るか?)
(君、バレるかもって思わないわけ?)
(うーん、ゾランには十中八九バレてるぞ)
(はぁぁぁぁぁ?! 君、バカなの?)
(安心しろ。そなたについてはバレておらん。まぁ、奴が本気で探してるはそなたの方だがな)
(だろうね。僕が死ぬ時、あいつなんて言ったと思う?)
エミルは私の横にどっかりと腰を下ろし、膝の上で拳を握りしめた。そしてゾランの口真似をする。
(猊下、早く転生してくださいね。逃げても無駄ですよ? 地の果てまで追いかけますからね? じゃあ、また会う日まで。おやすみなさい)
おお、似ておるな。
腹立つくらい綺麗な笑顔で言われるんだよな。
でも、ならばますますこのこども園に来た意味がわからんな。
何か他に事情があるのか?
私のことが好き、以外で。
「できたー」
クララが金色の杖を掲げる。
おお!うまいではないか!
私も負けじとピンクの杖を掲げ、金とピンクが交差する。
「あらー、上手ねえ。ロージュナタとルメナみたいだわ」
先生が拍手をくれる。
……ルメナ?黄色?
ロージュナタ以外にもいるのか?
ああ、私に資金力があれば、円盤を大人買いするものを……!
そういえば、女神生誕祭の夜に精霊さんがプレゼントをくれると母上が言うておられたが、精霊さんにはどう頼めばいいのだろうか。
(のう、エミル。精霊さんにどうやってプレゼントを頼むのだ? 確か聖堂で手紙を受け付けておったよな?私も書けばよいのか?)
(……は?)
(そなたは何を頼むのだ? ディノザーヴリ戦隊のおもちゃか?)
(いや、何だよそれ)
(知らんのか? 恐竜の力を得た戦士たちが、悪の組織と戦うのだ)
(……君って、こどもを楽しんでるよね)
エミルはやれやれと立ち上がる。
なんかうっすらバカにされた気がするんだが?
そういえば、女神生誕祭でも、恋人とやりたいことリストがいくつかあったな。
プレゼント交換をするってのがあったが……。
ふと、メガネの顔が思い浮かんだ。
……男ってのは何を喜ぶんだ?
(なぁ、エミル)
(んー?)
エミルは寝転がって腕を上げ、魔力を溜めている。
私も横に陣取って、同じように手を上げた。
(そなたが今大人だとして、プレゼントを貰うなら何がいい?)
(……それ、誰を想定してるの?)
(一般論だ。私もいずれ恋人とプレゼント交換をするだろう? その時に備えての情報収集だ)
エミルが乾いた笑い声をたてる。
(恋人できてから考えたら? だって明日にも大聖女に任命されてるかもしれないだろ?)
(はぁ?! ……いや、でも私は真剣に聞いているのだ。何がよい?)
エミルは面倒くさそうにため息を吐いた。
(別に僕は欲しいものなんて……あ、自分にリボンでもかけて、私をあげるってやってみたら?)
(……なんだ、その発想は。変態か?)
(うるさいなあ! じゃあ、君は何が欲しいんだ?)
私?私は何が欲しいだろう?
女子の欲しいものはアクセサリーが一位だったような気がする。
(……結婚指輪、とか)
(重っ)
やかましいわ!




