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第十三話 □ かき氷をあーんしてもらう

 □ かき氷をあーんしてもらう

 □ ヨーヨー釣りを一緒にする

 □ 花火を無言で並んで見上げる


 夏だ!祭りだ!かき氷だ!

 盛夏の夜、無駄にでかい聖堂前広場に、屋台が軒を連ねる。

 人を集めるのに食べ物は鉄板だ。

 美味しいものを食べて、ついでに女神に感謝して、なおかつ寄付して帰れ。


 だが赤ん坊が一人で屋台をふらつくわけにもいかず、私は残業中の母上を待ちながら、聖堂の一室から広場を見下ろしていた。

 保育係の聖女数人と、私と同じような境遇の子どもがこの部屋で過ごしている。

 不憫でならぬ……!


 ああ、ほら。人の賑わいと、美味しそうな匂い、色とりどりの魔導灯が、こちらへおいでと手招きしているではないか。


 くそっ。夏祭りは、恋人とやりたいことリストがたくさんあるのに、たどり着くことさえできぬとは……!


「ジェレン」


 この声は、メガネ!


 振り返ろうとして、その前に顔を引き締める。

 待っていたような顔をしては、つけあがるからな。うん。

 ゆっくりと振り返り、あやうく駆け寄りそうになった足をぴたりと止める。

 いかん。これでは会いたかったみたいではないか。

 私は動かん。そなたが来い。


「歩くの面倒なんですか?」


 彼は苦笑を浮かべながら、二歩で私を抱き上げた。

 今日は神官のローブではなく、聖堂騎士団の真っ黒な紋章衣を纏っている。

 じろじろ見ていると、メガネは状況説明を始めた。


「早番でしたので、本日の業務は終了いたしました。先ほど、あなたのお母様から依頼を受けまして、お迎えにあがった次第です」


 お前……聖女たちが、ぽかんとした顔で見ているではないか。


「さあ、参りましょう。何が食べたいですか?かき氷ですか?」


 その誘導めいた言い方に、引っ掛かりを覚える。

 幼児にかき氷を勧めるか?お腹壊すかもしれんぞ?

 いや、暑いし水分補給を兼ねての提案かもしれぬが。


 ……そなた、まさかあのノートを見たのではないだろうな?


 あのピンクのマル秘ノートは、結局メガネに預けることになってしまった。なぜなら、私は赤ん坊で、家には隠せる場所がない。母上に見つかっては、これ誰の?となるに決まっているからだ。


 あんなもん預かったら、普通見る。

 私なら確実に見る。

 じーっと疑いの目を向けていると、メガネはにこりと微笑んだ。


 ……あやしい。


 広場に降り立ち、メガネの肩越しに祭りの様子を観察する。

 ふむふむ、椅子も多いし、ゴミもちゃんと溢れずに処理されておるな。騎士団の配置も適切か?


「静かですね。おねむですか?」


 違うわ!


 ぽかりと肩を叩くと、メガネが横を向き、二人の頬が触れた。


 ……っ!!


 ……近い!ヒゲが痛い!

 こっち向くな!


 手のひらで頬をぐいぐい押すと、「申し訳ございません」と、もごもご謝られた。


 まったく、乙女の柔肌に傷をつけるでないわ。


「何か食べますか? それとも遊びます?」


 うーむ。祭りに参加したことがないのだが、何を……。


 その時、私の視界にピンク色が飛び込んできた。


「魔法少女ルシュトナ・トロイツァ」の主人公、ルシュトナ・ロージュナタのお面だ。


「あえ!」


 勢い勇んで指差すと、メガネはくるりと振り返り、私を前向きに抱っこした。


「あのピンクのお面ですか?」


 その声が「なんでまたあんなもんを」と言わんばかりで、私は足をバタバタさせて厳重に抗議した。


「わかりました、わかりましたから、暴れないでください」


 メガネは私をぎゅっと抱きなおし、お面を買ってくれた。


「はい、どうぞ」


 手渡され、変な声が出る。


「ふほぉぉぉぉぉぉおお!!」


 私のアナ!!

 ロージュナタ!


 早速お面を付けて、上機嫌で祭り会場を回っていると、メガネがぴたりと足を止めた。


「ヨーヨー釣りです」


「うむ」


「しないのですか?」


 ……こいつ。私の夏祭りデートプランをなぜ知っている。やはり見たな?見ただろう?


 しかしお面越しの睨みつけなど意に介さず、メガネは店主からこよりを受け取った。


 私の手を後ろから支え、ピンク色のヨーヨーを一緒に釣り上げる。


 おお、意外に楽しいではないか。


「お上手です」


 ほぼ、そなたの操り人形だがな。


「ともかく、一緒にできましたね」


 ……いや、こなせばいいというもんじゃないぞ?

 何度も言うが私は恋人とやりたいのであってな?


 だがこいつは、満足そうに眼鏡をくいっと上げた。


「次はかき氷を食べましょう」


 くそ。何も通じぬ。

 思念伝達、してみるか?


 だが個人的な伝達は回線を繋ぐのが難しいんだよなあ。とは言え、精霊石を介した伝達は公的なやつだし、情報漏洩の危険がある。


 悩んでいるうちにかき氷屋さんの前に着いてしまった。


「何味がいいですか?」


「いちご!」


 ピンクだしな。


 一つだけ買い、スプーンは二つもらう。

 椅子に腰掛け、メガネがしゃくっと氷をすくう。


「はい、あーんして下さい」


 ……いや、もらうけど。もらうけどな?

 これでチェック付けたら、さすがに怒るぞ?


 私はもう片方のスプーンを握りしめ、氷を不器用にすくった。


「ん!」


 ほれ!口開けろ。

 私が突っ込んでやる。


「いえ、私は結構です」


 メガネが身を引く。


 ははーん?

 この美幼児に「あーん」されるのが恥ずかしいんだな?

 だが、こういうのはお互いにやり合うもんだと、何かで読んだぞ?

 ほれ、開けんか。


 スプーンをぐいぐいと口に押し付けると、ようやくメガネはかすかに口を開き、私はその隙間に氷を滑り込ませた。


「んまいか?」


「……はい」


 メガネは目を逸らせたまま、呟いた。

 ならば、もっとうまそうな顔をせんか。


 でも、なんだか少し、耳が赤いような。

 ……まさか、本気で照れているのか?


 …………。


 ヤバい。なんだこれ。

 恥ずかしすぎて目を見れん。

 顔が、熱い。


 どうしていいかわからず、私は一心不乱に、かき氷を口に入れ続けた。


「そ、そんなに食べてはお腹壊しますよ?」


 メガネに取り上げられるまで、私は手を止められなかった。


 くっそ、頭がきーんってなったわ。


「かき氷、お好きなんですね」


 苦笑されながら、ハンカチで口の周りを拭われ、その子ども扱いにじわりと恥ずかしくなる。


「そろそろ花火の時間ですね。ここからでも見えますが、聖堂内でお母様と一緒に見ますか?」


 こくこくと頷く。

 だが、あのノートには花火の項目もあったはず。


 それは……叶えてくれぬのか?

 ……いや、別に、いいんだが。



「ありがとうございます、バルシュ様。よかったねー、ジェレン」


 母上が頭を下げ、私は右手を振る。

 遠ざかっていく背中を見ながら、なぜか胸がきゅっとなる。


「あ、ほら、花火始まったよ」


 轟音とともに、大きな火の花が咲く。

 母上の胸に抱かれて安心を覚えながら、また、心の底の小さな穴に気付く。


 どうして急いで帰ったんだろう。

 何か、大事な用事?

 誰かとの約束?


 ……別に、関係ないけど。



 ☑︎ かき氷をあーんしてもらう

 ☑︎ ヨーヨー釣りを一緒にする


 □ 花火を無言で並んで見上げる


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