↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/16

第十話 転生聖女、魔法少女に憧れる

 これは……恋かもしれぬ。


 私は惚けたように彼女、アナを見上げる。

 魔導水晶端末に映るその姿は、気高く美しい。


「怖い。けれど前を向かなければ何も変わらないわ。私に彼らを救う力があるというのなら──」


 先端にピンク色の宝石のついた金杖を手に、アナが叫ぶ。


「咲き誇れ!光のルシュトナ・ロージュナタ!」


 一面にピンクの花びらが舞い、アナの姿が変わる。

 バラやチューリップ、ブーゲンビリアにロータス、様々なピンク色の花がドレスとなり、滑らかな背中には、透き通る妖精の羽が現れた。


 美しい湖は黒く染まり、闇の精霊テムニルが蠢く。


「ロージュナタ!危ない!」


 光の精霊ルーチェクが叫ぶ。

 アナはテムニルの攻撃を受けて、黒い湖の中に落ちてしまう。

 そこで見たものは、テムニルの悲しい過去、苦しい思い。


 ──違う。


 アナは確信する。


 攻撃するんじゃない。

 私は彼らを浄化するんだ。


 その願いに応えて、ピンクの宝石、ロージュニ・クリスタルが輝く。


「ピンクの閃光!ロージナティ・ブリスク!」


 アナの叫びとともに、ピンク色の光が湖を包み、テムニルが光の精霊に戻っていく。


「ありがとう、ルシュトナ・ロージュナタ」


 湖は美しく平穏な姿を取り戻し、アナは誓う。


 あなたたちが望むのなら、私は必ずこの手を伸ばそう。ロージュニ・クリスタルの導きのままに──。


 …………。


 ……終わった、のか?


 私はしばらくの間、魔導水晶端末から目を離せなかった。


 三十分、夢をみているようだった。

 森と湖の美しい世界。

 十四才の少女、アナの美しさ。


 これが、「魔法少女ルシュトナ・トロイツァ」なのか。


(ふわぁー、終わった?)


 同じベビーサークル内で、エミルが大あくびをする。

 ここは病院内にある遊び場で、まわりでは数人の赤ん坊が思い思いに遊んでいる。


 私はすっくと立ち上がった。


(エミル、私は決めたぞ)


(あー、なんて言うかもう分かったよ)


(魔法少女に、私はなる!!)


(……ほんと、君って子は。見てて飽きないよ)


 そう、私が目指すべきは魔法少女だったのだ。

 私の大聖紋は聖力を扱うに長けているが、魔力に対する適性は高くない。

 だが、好きこそものの上手なれと言うではないか。

 やってやれぬことはない。


(エミル、手伝ってくれ)


(やだよ)


(なっ……! そなたと私の仲ではないか。ほれ、手を出せ)


(相変わらず強引だなー。……どうぞ)


 嫌々差し出された両手に、両手を重ねる。

 これは、相手が送ってきた力と同等の力を返すゲームだ。

 繊細な技術が要求されるため、聖力の制御のためによくエミルとやったものだ。


(でも魔力で間違えたら、最悪死ぬよ?)


(ぶつける魔力の上限は、指三本分にしておくか)


(へぇ、怖いんだ)


(はぁ?負けるそなたのことを考えてやっただけだが?)


(……指五本分。ギリギリを攻めないとつまらないだろう?)


(吠え面かくなよ)


 にやりと笑い合い、ゲームを始める。


 相手の取り込んだ魔力を正確に感じ取り、同じ量を取り込んでお互いにぶつける。先攻より多くても少なくても、間違えれば後攻に跳ね返る。

 これを高速で行うのが楽しいのだ。

 負けたら痛いが。


(へぇ、魔力でも結構やるじゃないか)


(はっ、貴様もな)


(こども園、どう?)


(おお、愉快だぞ。そなたも早く来い。私の方が先輩だからな、しっかり敬え)


(はいはい。そういや、毎朝聖堂行くんだろ?)


(そうだ。歌うのは一番だけだからな。教えておいてやる)


(毎朝バルシュに抱きついてるんだってね)


(……なっ、なんで、いや、あれは情報収集のためにだな……って、痛った!!)


(はーい、僕の勝ちー)


(卑怯なり!!)


 ぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺち!!


 お互いにはたきあっていると、ふわりと聖堂の香りが鼻先をかすめた。


 メガネか?

 振り返って見上げると、真っ黒なローブのあの男がこちらを見下ろしていた。

 宰相、イェルネイだ。

 私を見ると目を見開き、それから眉間に深い皺を寄せた。


 ……なんか文句でもあんのか。


「……戻りますよ、殿下」


 愛情のかけらもない、低い声。

 また王命でも受けて渋々やって来たのか?

 でもなんでこんなやつに見舞わせるんだ?


 そう思っていると、宰相はエミルをゆっくりと抱き上げた。


 ん?前は看護師に命じたのに、今回は抱っこするんだな。ちょっとは仲良くなったのか?


(なあ、エミル。なんで宰相が来るんだ?)


(……僕の後見人みたいなものだからね)


 なるほど。

 エミルの母君は一番の寵妃だが、あまり身分が高くないと聞いたことがある。


(まぁ、王から頼みこまれただけで、イェルネイは気乗りしてないんだけどね。彼に娘でもいれば、違ったんだろうけど)


 ……なんで娘?


 エミルは小さな手を振って、それ以上は何も言ってくれなかった。

 宰相は扉の前でこちらを振り返り、私をじっと見つめたかと思うと、ふん、と鼻を鳴らして出て行った。


 ……喧嘩売ってんのかこら。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。