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第97話 百年の重み

 応接室には重い沈黙が流れていた。


 シャルロットはゆっくりと顔を上げる。


「でしたら……」


「私が旧魔王城へ向かいます」


「そして、魔王因子を破壊しましょう」


 迷いのない言葉だった。


 しかし、サンセリテは静かに問いかける。


「その前に、一つお聞きしてもよろしいでしょうか」


「はい」


「今のあなたは、光魔法をどの程度お使いになれますか」


 シャルロットは少し考え、静かに答えた。


「まだ全盛期には及びません」


「ようやく、光の聖剣を顕現できるようになった程度です」


 サンセリテは小さく頷いた。


「やはり、そうでしたか」


 そして、静かに続ける。


「百五十年前。」


「あなたは魔王ニコラスを打ち滅ぼしました」


「ですが、その核である魔王因子だけは、破壊することができませんでした」


 シャルロットは静かに目を閉じる。


 忘れるはずがない。


 あの日。


 仲間たちとともに魔王ニコラスを討ち果たした。


 しかし、その亡骸から現れた魔王因子だけは残った。


「あなたは最後の力を振り絞り、最大威力の光魔法――《光の投擲聖槍》を放ちました」


「ですが、それでも魔王因子は傷一つ付きませんでした」


「だからこそ、破壊を断念し、封印という道を選ばざるを得なかったのです」


 応接室は静まり返る。


 ソフィアは思わず息を呑んだ。


「《光の投擲聖槍》が……」


「通じなかったのですか……」


 その瞳には驚愕が浮かんでいた。


 光の投擲聖槍。


 それは大聖女ミュゲのみが到達した、光魔法の頂点。


 現代の光魔法使いである自分には、到底辿り着くことすらできない究極の一撃。


 その魔法ですら、魔王因子を破壊できなかった。


 その事実は、ソフィアの想像を遥かに超えていた。


 エレナも険しい表情で腕を組む。


「竜族にも伝わっておる」


「魔王因子とは、この世で最も忌むべき災厄だと」


「じゃが……」


「そこまで常識外れの存在だったとはのう……」


 サンセリテは静かに頷く。


「全盛期のミュゲですら破壊できなかった魔王因子です」


「今のあなたで、本当に破壊できるかどうか……」


「それは、私にも分かりません」


 シャルロットは静かに拳を握る。


 その事実は重かった。


 だが、サンセリテの言葉はそこで終わらなかった。


「それでも、この百年間、私たちは諦めませんでした」


「歴代教皇が、その使命を受け継ぎました」


「歴代聖女もまた、祈りと力を捧げ続けました」


「世界中から集められた賢者や魔術師も、この問題に挑みました」


「誰もが、魔王因子を終わらせようと願っていたのです」


 一呼吸置き、静かに続ける。


「ですが」


「誰一人として、魔王因子を破壊することはできませんでした」


 ソフィアは静かに俯く。


 その歴史は、聖女となった日にサンセリテから託された使命でもあった。


 エレナも小さく息を吐く。


「百年もの間……」


「これほど多くの者が挑み続けてもなお、破壊できなかったとは……」


 サンセリテは静かに頷いた。


「だから教会は、封印を守り続けるという道を選びました」


「それが、この百年間、私たちにできる唯一のことだったのです」


 シャルロットは静かに俯く。


 自分が託した使命は、サンセリテ一人が背負っていたのではない。


 歴代教皇。


 歴代聖女。


 世界中の賢者たち。


 数え切れないほどの人々が、その想いを受け継ぎ、百年という長い時を守り続けてくれた。


 その重みが、胸に深く響く。


 シャルロットはゆっくりと顔を上げた。


 その瞳には、百年前と変わらぬ強い決意が宿っていた。


「それでも私は、諦めません」


「百五十年前に終わらせることのできなかった使命です」


「今度こそ、必ず終止符を打ってみせます」


 その揺るぎない決意を見つめ、サンセリテは静かに微笑んだ。


 百年という時を超えて受け継がれてきた使命は、ついに新たな希望を見出そうとしていた。

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