第95話 あなたは……
応接室。
ソフィアも席に残り、四人は穏やかな時間を過ごしていた。
サンセリテは静かに紅茶を口へ運ぶ。
その視線は、シャルロットへ向けられていた。
薬学の知識。
人を救うための在り方。
言葉遣い。
立ち居振る舞い。
誰かを思いやる優しさ。
そして、大聖堂で見せた涙。
それらすべてが、一人の少女を思い出させていた。
百五十年前、ともに世界を旅した親友。
大聖女ミュゲ。
もはや偶然では説明がつかない。
サンセリテは静かに息を吐き、真っ直ぐシャルロットを見つめた。
「シャルロット殿」
「はい」
穏やかに返事をするシャルロット。
サンセリテは静かに口を開く。
「単刀直入に、お伺いいたします」
一瞬、部屋の空気が張り詰めた。
「あなたは……」
短い沈黙。
「ミュゲなのですか」
その一言が、静かな応接室へ響く。
「え……?」
ソフィアは目を見開いた。
エレナも思わず立ち上がる。
「な、何を申しておるのじゃ……!」
二人は信じられないという表情で、サンセリテとシャルロットを見比べた。
しかし、サンセリテだけは静かだった。
答えを待っている。
シャルロットはゆっくりと目を閉じ、小さく息を吐く。
そして静かに目を開いた。
「はい」
「私はシャルロット・メシャントです」
一度言葉を区切る。
「ですが……」
「前世の記憶があります」
「前世で、大聖女ミュゲとして生きていました」
静かな告白だった。
しかし、その一言は部屋の空気を一変させた。
「そ、そんな……」
ソフィアは口元へ手を当て、震える。
エレナも呆然と立ち尽くした。
「では、お主が……」
「我が知る、大聖女ミュゲだったというのか……」
二人とも言葉を失う。
百年前の英雄。
教会史に名を刻む伝説の聖女。
その人物が、目の前の少女だった。
あまりにも信じ難い真実だった。
一方、サンセリテは静かに目を閉じる。
「……やはり」
その声には驚きはなかった。
長年抱いていた確信が、真実へ変わった安堵だけがあった。
ゆっくりと目を開き、百年ぶりの親友へ微笑みかける。
「おかえり」
シャルロットも涙を浮かべながら微笑んだ。
「ただいま」
たった二つの言葉。
けれど、その一言には百年という長い歳月と、決して途切れることのなかった友情が込められていた。
こうして百年の時を越え、二人の旧友は再び巡り会うのだった。




