第91話 王都ルミエール
翌日の昼過ぎ。
エレナは王都ルミエール近郊の草原へ静かに降り立った。
眩い紅い光が辺りを包み、その巨体はゆっくりと縮んでいく。
やがて光が収まると、そこには見慣れた少女の姿へ戻ったエレナが立っていた。
「着いたぞ」
「ここから先は歩いて向かうとしよう」
「はい」
シャルロットは微笑み、二人は王都への道を歩き始めた。
しばらく歩くと、高くそびえる城壁が見えてくる。
門をくぐった瞬間、目の前には活気あふれる街並みが広がった。
石畳の大通り。
歴史ある建物が立ち並ぶ街並み。
行き交う多くの人々。
露店から漂う焼きたてのパンの香り。
穏やかに響く鐘の音。
そして、街の中心に堂々とそびえ立つルミエール大聖堂。
その荘厳な姿は、百年という長い年月を経ても変わることなく、王都を見守り続けていた。
シャルロットは思わず足を止める。
懐かしい景色だった。
大聖女ミュゲとして、最も長い年月を過ごした都。
多くの人々と出会い、笑い、涙を流し、人生を歩んだ場所。
その記憶が、静かに胸の奥から蘇ってくる。
「どうしたのじゃ?」
エレナが不思議そうに尋ねる。
シャルロットは我に返り、柔らかく微笑んだ。
「いえ……」
「とても素敵な街だなと思いまして」
エレナは満足そうに頷く。
「うむ」
「ルミエールは世界最大の宗教都市じゃ。」
「永い歴史を持つ、美しい都じゃからのう」
シャルロットはもう一度、大聖堂を見上げた。
鐘の音も。
石畳の感触も。
街を吹き抜ける風も。
何もかもが懐かしい。
けれど今の自分は、大聖女ミュゲではない。
薬師シャルロット・メシャントとして、この街へやって来たのだ。
シャルロットは小さく息を吸い込み、静かに歩き出す。
その先には、再び会う約束を交わした旧友が待っていた。
こうして二人は、ルミエール大聖堂への道を歩み始めるのだった。




