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第7話 そして百年後

 大聖女ミュゲ・ジプソフィルの葬儀は、国葬として執り行われた。


 王侯貴族。


 各国の使節団。


 教会関係者。


 騎士団。


 そして世界中から集まった多くの人々が、その死を悼んだ。


 棺には色とりどりの花が手向けられ、人々は静かに祈りを捧げる。


 世界を救った英雄は、多くの人々に見送られながら永い眠りについた。


 それから百年。


 二十年。


 三十年。


 長い時が流れた。


 季節は巡り、王は代替わりし、街並みも人々の暮らしも少しずつ姿を変えていく。


 かつて魔王討伐を知る者は誰一人として残っていない。


 英雄たちの物語は歴史書や吟遊詩人の歌として語られるだけとなっていた。


 だが、一人だけ。


 あの日と変わらぬ姿で時を見つめ続ける者がいた。


 エルフの大魔術師サンセリテ。


 百五十年という長い歳月を生きながら、彼は誰にも知られることなく、ただ一つの使命を果たし続けていた。


 魔王因子――魔核融合体の封印を見守ること。


 それが、大聖女ミュゲと交わした最後の約束だった。


 そして、ある日のこと。


 旧魔王城跡地の最深部。


 幾重にも重ねられた巨大な封印術式が、静かに揺らぐ。


 ――ピシッ。


 小さな音だった。


 しかし、その一筋の亀裂は確かに封印へ刻まれていた。


 サンセリテは静かにその光景を見つめる。


「……始まったか」


 その声に焦りはない。


 百五十年前から、この瞬間は必ず訪れると分かっていたからだ。


 彼は静かに空を見上げた。


「ミュゲ」


「約束の時が来た」


 春風が吹き抜ける。


 まるで、大聖女の優しい微笑みが風に乗って届いたかのようだった。


 サンセリテは小さく微笑む。


「今度は、未来の者たちが世界を救う」


 そう呟き、静かに歩き出す。


 未来へ希望を繋ぐために。


 そして、時代は大きく動き始める。


 百五十年後――。


 舞台は、ナルシス王国。


 辺境を治めるメシャント伯爵家。


 一人の少女が、人生の転機となる成人の儀を迎えようとしていた。


 少女の名は、シャルロット・メシャント。


 これは、かつて世界を救った大聖女が、新たな人生でもう一度世界を救うまでの物語である。

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