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第6話 大聖女の最期

 翌朝。


 柔らかな朝日が、寝室へ静かに差し込んでいた。


 窓の外では小鳥たちがさえずり、春風が庭の花々を優しく揺らしている。


 穏やかな朝だった。


 ミュゲはゆっくりと目を開ける。


 窓の外へ視線を向けると、庭では子どもたちが楽しそうに駆け回っていた。


 その笑い声に耳を澄ませながら、自然と微笑みがこぼれる。


 平和だった。


 誰も怯えることなく笑い合える世界。


 魔物に脅かされることなく、家族が共に暮らせる日々。


 それこそが、仲間たちと命を懸けて守り抜いた未来だった。


 旅の記憶が、静かによみがえる。


 聖騎士アーサー。


 暗黒騎士アデラーン。


 大魔術師サンセリテ。


 学者クロエ。


 頼もしい仲間たちと歩んだ長い旅路。


 苦しいことも、悲しいことも数え切れないほどあった。


 それでも最後には、皆で笑うことができた。


「……よかった」


 その一言に、すべての想いが込められていた。


 世界を守れたこと。


 仲間と出会えたこと。


 人々が笑って暮らしていること。


 それだけで十分だった。


 ミュゲは穏やかな笑みを浮かべる。


 窓から差し込む朝日が、その横顔を優しく照らした。


「皆さん……」


「ありがとうございました」


 小さく呟く。


 その声は、春風へ溶けるように静かだった。


 ゆっくりと瞳を閉じる。


 呼吸は穏やかに。


 まるで安らかな眠りにつくように。


 世界を救った英雄――大聖女ミュゲ・ジプソフィルは、その生涯に静かに幕を下ろした。


 享年八十。


 その訃報は瞬く間に世界中へ広がった。


 王侯貴族。


 教会。


 騎士団。


 そして名もなき村人たち。


 誰もがその死を悼み、祈りを捧げた。


 各地の教会では鐘が鳴り響き、人々は花を手向ける。


 大聖女は旅立った。


 しかし、その想いが消えることはない。


 世界は確かに受け継がれた。


 そして、もう一つ。


 五十年前から続く約束もまた、静かに未来へ託されたのである。

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