表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
7/27

第5話 最後の約束

 サンセリテは、大切そうに手帳を胸へ抱いた。


 部屋には静かな時間が流れている。


 窓の外では、小鳥たちが楽しげにさえずり、春風が庭の花々を優しく揺らしていた。


 その穏やかな景色を眺めながら、ミュゲは静かに口を開く。


「サンセリテ」


「はい」


「あの封印は……いずれ綻びます」


 その言葉に、サンセリテは静かに頷いた。


「ああ」


「私もそう思っている」


 五十年前。


 魔王ニコラスは討ち果たした。


 しかし、魔王因子――魔核融合体だけは違った。


 あれは全盛期のミュゲでさえ破壊できず、封印することしかできなかった存在。


 封印とは、永遠ではない。


 時間を稼ぐための術に過ぎない。


 いつの日か、必ず限界は訪れる。


「その時は……」


 ミュゲは窓の外へ目を向けた。


 青く澄み渡る空。


 平和な街並み。


 人々の笑い声。


 それらを慈しむように眺めながら、小さく微笑む。


「未来の人たちが、この世界を守ってくれることを信じています」


 サンセリテはその横顔を見つめた。


 旅の頃から変わらない。


 誰よりも人を想い、自分のことは後回しにする少女。


 その優しさは、八十歳となった今も少しも変わっていなかった。


 サンセリテは静かに立ち上がる。


 そして、ミュゲの前まで歩み寄ると、力強く言った。


「必ず未来へ繋ぐ」


 その一言に、一切の迷いはなかった。


 ミュゲは嬉しそうに目を細める。


 だが、サンセリテはさらに続けた。


「そして、次は――」


「お主一人に背負わせはせぬ」


 その言葉に、ミュゲは静かに息を呑む。


「あの戦いでは、お前がすべてを背負いすぎた」


「封印も」


「人々の希望も」


「仲間の想いも」


「だから今度は違う」


「私が生きよう」


「未来まで、この命を繋ごう」


「そして未来の仲間たちと共に、必ずこの戦いへ終止符を打つ」


 ミュゲの瞳に、涙が滲んだ。


 悲しみではない。


 安堵だった。


「ありがとうございます……」


 それ以上の言葉は出なかった。


 二人は静かに微笑み合う。


 五十年前。


 世界を救うため共に戦った戦友。


 その絆は、長い歳月を経てもなお、少しも色褪せてはいなかった。


 サンセリテは胸に抱いた手帳をそっと見つめる。


 そこには、大聖女が未来へ託した希望のすべてが記されている。


「約束しよう」


「必ず未来へ繋ぐ」


 その力強い言葉に、ミュゲはゆっくりと頷いた。


「はい」


「あなたなら、きっと」


 こうして二人は、新たな約束を交わした。


 その約束は、百五十年という長い時を越え、未来へ受け継がれていく希望の光となるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ