第86話 受け継がれた光
大聖女生誕祭、最終日。
フルール大聖堂には、今年も大勢の巡礼者が集まっていた。
厳かな鐘の音が鳴り響く中、祭壇へ一人の女性がゆっくりと歩み出る。
聖女ソフィア。
純白の法衣をまとったその姿は、まるで一筋の光そのものだった。
ソフィアは静かに両手を胸の前で重ね、祈りを捧げる。
やがて、柔らかな光が祭壇から溢れ出した。
高位光魔法。
神々しい光は大聖堂全体を優しく包み込み、人々の心を穏やかに癒やしていく。
巡礼者たちは静かに手を合わせ、それぞれの祈りを神へ捧げた。
一方、その光景を見つめるシャルロットの胸にも、静かな懐かしさが込み上げていた。
(懐かしいですね……)
百五十年前。
世界を巡り、多くの人々を救うために旅を続けた日々。
共に笑い、共に戦い、共に未来を信じた仲間たち。
あの頃の思い出が、一つ、また一つと胸によみがえる。
そして、その中には若き日のサンセリテの姿もあった。
(皆さん、お元気でしょうか……)
そう思いかけて、シャルロットは小さく苦笑する。
(私だけが、こうしてもう一度生きているなんて、不思議ですね)
穏やかな表情のまま、再び祭壇へ視線を戻した。
一方、サンセリテは祭壇の傍らから静かにシャルロットを見つめていた。
薬師としての豊富な知識。
卓越した治療技術。
患者へ寄り添う優しさ。
自然と人を安心させる立ち居振る舞い。
そして、何気なく口にした言葉。
どれもが、百五十年前のミュゲとあまりにもよく似ていた。
(偶然……)
(ここまで一致することが、本当にあるのでしょうか)
教皇として冷静であろうとするほど、その疑問は胸の奥で大きくなっていく。
その一方で、祭典を終えたソフィアもまた、シャルロットへ静かに視線を向けていた。
薬師としての確かな知識。
患者へ寄り添う温かな心。
そして、石化事件で見せた落ち着いた判断力。
(シャルロットさん……)
(あなたは、一体どれほど多くのことを学んでこられたのでしょう)
尊敬にも似た想いが、静かに胸の中で芽生えていく。
大聖女生誕祭は、多くの祈りと祝福に包まれながら静かに幕を閉じた。
しかし、シャルロット、サンセリテ、そしてソフィア。
三人の心には、それぞれ新たな想いが刻まれていた。
それはやがて、百年の時を越えて受け継がれた光の真実へと繋がっていくのだった。




