第84話 聖女ソフィア
教皇サンセリテと聖女ソフィアは、『シャルロット薬舗』の店内へ案内されていた。
店内には薬草の優しい香りが漂い、多くの薬瓶や乾燥薬草が整然と並べられている。
シャルロットは二人へ薬草茶を差し出した。
「どうぞ、ごゆっくりおくつろぎください」
「ありがとうございます」
サンセリテは穏やかに微笑み、一口薬草茶を口に含む。
「とても落ち着く香りですね」
「ありがとうございます」
シャルロットが微笑み返すと、サンセリテは店内を見回しながら口を開いた。
「実は最近、王都ルミエールでも『フルールに評判の薬師がいる』という話を耳にするようになりまして」
「巡礼者や旅人の方々が、皆さん口を揃えてこの薬舗のことを話されるのです」
「せっかくこの街を訪れる機会です」
「ぜひ一度、薬舗を見学させていただきたいと思いました」
シャルロットは少し照れくさそうに微笑んだ。
「そのようなお話を聞いていただけて、とても嬉しいです」
その時、一人の老婦人が薬舗へ入ってきた。
「シャルロット先生」
「また膝が痛み始めてしまってねぇ」
「どうぞ、こちらへ」
シャルロットはすぐに椅子を勧め、膝の様子を丁寧に診察する。
「少し無理をされましたね」
「こちらのお薬を三日ほど続けてください」
「今日はなるべく足を温めてお過ごしくださいね」
老婦人は安心したように笑顔を浮かべた。
「ありがとう」
「あなたのお薬のおかげで、いつも助かっていますよ」
「お大事になさってください」
老婦人を見送るシャルロットの姿を、ソフィアは静かに見つめていた。
患者の話へ真剣に耳を傾ける姿。
優しく微笑みながら言葉を掛ける姿。
不安を和らげる穏やかな口調。
その一つひとつに、人を思いやる温かさが自然と滲み出ていた。
「素晴らしいですね」
ソフィアは穏やかに微笑む。
「皆さんが安心した表情で帰っていかれる理由が分かる気がします」
シャルロットは少し恥ずかしそうに笑った。
「ありがとうございます」
「薬だけでは、不安まで取り除くことはできませんから」
「少しでも安心して帰っていただけたらと思っています」
ソフィアは静かに頷く。
「そのお気持ち、とても素敵です」
「だから皆さんが、こんなにもシャルロットさんを頼りにされているのですね」
二人は自然と笑みを交わした。
それから話題は薬草へ移る。
乾燥方法。
調合の順番。
薬効の違い。
ソフィアは目を輝かせながら耳を傾け、熱心に質問を重ねていく。
シャルロットもまた、素直に学ぼうとするソフィアの誠実な姿勢へ自然と好感を抱いていた。
(本当に努力家で、素敵な方ですね)
初めて会ったはずなのに、不思議と会話は尽きない。
一方のソフィアもまた、穏やかな笑顔で患者へ寄り添うシャルロットから、不思議な安心感を覚えていた。
(初めてお会いしたはずなのに……)
(なぜでしょう)
(もっとお話をしていたいと思ってしまいます)
その感情の理由を、まだ誰も知らなかった。
こうしてシャルロットとソフィアは、互いの人柄に惹かれながら、少しずつ心の距離を縮めていくのだった。




