第80話 広がる噂
冬のある日。
王都ルミエール。
世界中から巡礼者や商人、冒険者が集まる王都は、今日も多くの人々で賑わっていた。
そんな大通りの酒場では、一つの噂が人々の話題をさらっていた。
「聞いたか?」
「ナルシス王国で、とんでもない少女が現れたらしいぞ」
「ジェネラルオーガを倒したって話だ」
「なんでも、光り輝くでっかい剣で一撃だったらしいぜ!」
「本当かよ!」
「俺が聞いた話じゃ、その一振りで山が割れたらしいぞ!」
「それは盛りすぎだろ!」
酒場は笑いに包まれる。
しかし、一人の冒険者が真顔で口を開いた。
「でも、何人もの冒険者が見たって話だ」
「鉄ランク昇格試験の最中だったらしい」
「しかも、その剣は普通の魔法じゃなかったって」
「巨大な光の剣だったそうだ」
「巨大な光の剣……?」
「そんな魔法、聞いたことがねぇな」
すると、巡礼者らしき男が静かに口を開いた。
「教会では、その剣が『光の聖剣』ではないかと噂になっているそうですよ」
「光の聖剣だって?」
「もし本当なら、大聖女ミュゲ様が使われた伝説の御業じゃないか……」
一瞬、その場は静まり返る。
だが次の瞬間――。
「まさか!」
「そんなわけあるか!」
「百五十年前の英雄だぞ!」
「伝説が現代に蘇るなんて、あり得ねぇよ!」
皆、笑って否定する。
それでも、その場にいた誰もが胸の奥に小さな引っ掛かりを覚えていた。
すると、別の旅人が思い出したように口を開く。
「そういや、その少女って薬師らしいぞ」
「薬師?」
「ああ」
「フルールって街で『シャルロット薬舗』って店をやってるらしい」
「俺も巡礼帰りの奴から聞いたな」
「腕がいいって評判らしいぞ」
「薬もよく効くし、先生がすごく優しいんだと」
「へぇ……」
「冒険者で薬師か」
「変わった奴もいるもんだな」
人から人へ。
旅人から商人へ。
商人から巡礼者へ。
噂は少しずつ尾ひれを付けながら、王都中へと広がっていく。
市場でも。
宿屋でも。
酒場でも。
人々の話題は、「巨大な光の剣を使った少女」と、「フルールにあるシャルロット薬舗」のことで持ちきりだった。
やがて、その噂は王都を巡回する神官や、各地から訪れた巡礼者たちの耳にも届き始める。
「ナルシス王国で、巨大な光の剣を使う少女が現れたらしい」
「しかも、フルールで薬舗を営む薬師だそうだ」
その話は静かに、しかし確実に教会の中へも広がっていった。
一方その頃。
噂の中心人物であるシャルロットは、そんな騒ぎなど知る由もなく、フルールの街でいつものように薬草を調合していた。
辺境の小さな街で起きた一つの奇跡。
その噂は人々の口から口へと語り継がれ、少しずつ世界へ広がり始めていた。




