第79話 守りたい日常
温泉旅行を終えたシャルロットたちは、フルールの街へ戻ってきた。
冬のフルールは、今日も静かな雪に包まれている。
屋根には白い雪が積もり、煙突からは温かな煙が立ち上る。
子どもたちは雪遊びに夢中になり、大人たちは雪かきをしながら笑顔で言葉を交わしていた。
「おかえりなさい!」
『シャルロット薬舗』へ戻ると、ソレイユたちが笑顔で迎えてくれる。
「お帰り、お姉ちゃん!」
ルークも嬉しそうに手を振る。
リュンヌは収穫した薬草を抱えながら笑った。
「ちゃんとお店も守ってたよ!」
アマリリスはふわりと宙を舞う。
「お土産話、たくさん聞かせてね!」
エレナも嬉しそうに微笑んだ。
「皆のおかげで、安心して帰省できたのじゃ」
賑やかな夕食を終えた後。
シャルロットは一人、窓辺へ立った。
静かに降り続く雪。
街を照らす家々の灯り。
人々の穏やかな笑い声が、遠くから聞こえてくる。
ここへ来たばかりの頃は、何もなかった。
追放され、不安を抱えながら辿り着いた小さな街。
けれど今は違う。
隣には仲間がいる。
支えてくれる家族がいる。
薬舗を訪れてくれる人々がいる。
笑顔で「ありがとう」と言ってくれる街の人たちがいる。
それは、前世では守り抜くことのできなかった、かけがえのない日常だった。
シャルロットは窓の外を見つめながら、小さく微笑む。
「本当に……幸せですね」
その時、後ろから優しい声が聞こえた。
「何を見ておるのじゃ?」
振り返ると、湯気の立つお茶を持ったエレナが立っていた。
シャルロットは受け取った湯飲みを両手で包み込みながら、再び雪景色へ目を向ける。
「皆さんの笑顔を見ていました」
「この街へ来られて、本当に良かったと思いまして」
エレナも隣へ並び、静かに雪景色を眺める。
「そうじゃな」
「わらわも、この街が大好きになったのじゃ」
二人はしばらく言葉もなく、降り積もる雪を見つめていた。
やがてシャルロットは、誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。
「この日常を……」
「守り続けたい」
それは、前世で世界を救った大聖女としてではない。
一人の薬師として。
フルールの街で暮らす、一人の少女としての願いだった。
窓の外では、雪が静かに降り続いている。
その穏やかな景色を胸に刻みながら、シャルロットは改めて心へ誓う。
この温かな日常を。
この大切な家族を。
この愛する街を。
今度こそ、最後まで守り続けようと。




