第78話 薬湯
雪祭りの翌日。
エレナは皆を見渡しながら微笑んだ。
「せっかく冬のフルールまで来たのじゃ」
「今日は、とっておきの場所へ案内するのじゃ」
「とっておきの場所ですか?」
シャルロットが首を傾げる。
エレナは誇らしげに頷いた。
「フラム=ヴェル竜王国の象徴、マグナ火山じゃ」
「その麓には、人間と竜族が共に暮らす温泉町があるのじゃ」
「ナルシス王国との国境にある町で、多くの旅人が疲れを癒やしに訪れる名湯なのじゃぞ」
「温泉!」
ソレイユの目が輝く。
「一度入ってみたかったんです!」
リュンヌも耳をぴんと立てた。
「ぽかぽかするお風呂?」
「楽しみ!」
アマリリスは嬉しそうに宙をくるりと回る。
「温泉なんて久しぶり!」
「早く行きましょう!」
ルークも笑みを浮かべた。
「みんな、楽しそうだね」
マグナ火山の麓へ到着すると、そこには湯けむりに包まれた美しい温泉町が広がっていた。
石造りの旅館。
立ち昇る白い湯気。
温泉街には人間と竜族が自然に行き交い、笑顔で言葉を交わしている。
「本当に一緒に暮らしているんですね」
シャルロットが微笑む。
エレナも嬉しそうに頷いた。
「ここは昔から、人と竜が助け合って暮らしてきた町なのじゃ」
「フラム=ヴェル竜王国の誇りでもあるのじゃぞ」
一行は老舗旅館へ案内され、さっそく温泉へ浸かった。
「ふぅ……」
シャルロットは思わず息を漏らす。
「とても気持ちいいですね」
身体の芯まで温まり、旅の疲れがゆっくりと溶けていく。
その時だった。
シャルロットは露天風呂の周囲へ自生する薬草へ目を留める。
「これは……」
宿の主人が近付いてくる。
「マグナ火山の麓は地熱のおかげで珍しい薬草がよく育つんですよ」
シャルロットは一本一本手に取り、香りや葉の状態を確かめた。
やがて静かに微笑む。
「少し試してみてもよろしいでしょうか」
「もちろんです!」
主人は快く頷いた。
シャルロットは数種類の薬草を丁寧に調合し、小さな布袋へ入れて湯へ浮かべる。
すると、優しい薬草の香りが湯気とともに広がっていった。
「いい香り!」
ソレイユが嬉しそうに声を上げる。
リュンヌも肩まで湯に浸かりながら笑顔になる。
「身体がもっとぽかぽかする!」
エレナも感心したように目を細めた。
「湯がとても柔らかくなったのじゃ」
「これは見事なのじゃ」
アマリリスは湯けむりの中で気持ちよさそうに伸びをする。
「なんだか心まで軽くなった気がするわ」
ルークも驚いたように頷く。
「薬草と温泉で、こんなに違うんだ」
シャルロットは穏やかに微笑む。
「薬草には身体を温めたり、疲労を和らげたりする働きを持つものがあります」
「温泉と組み合わせることで、その効果をより引き出せるんです」
宿の主人は深く頭を下げた。
「これは素晴らしい……!」
「ぜひ、この薬湯をうちの名物にさせてください!」
シャルロットは優しく頷く。
「皆さんが笑顔になれるのでしたら、喜んで」
薬草の優しい香りと温泉の温もりが、身体だけではなく心まで癒やしていく。
湯けむりの向こうでは、仲間たちの笑い声が絶えることなく響いていた。
その穏やかな時間を味わいながら、シャルロットは静かに微笑む。
(こんな幸せな時間が、いつまでも続きますように。)
薬湯はやがて温泉町の名物となり、多くの旅人を癒やす、新たな名湯として語り継がれていくのだった。




