第69話 故郷
収穫祭も、いよいよ最後の夜を迎えていた。
広場には無数の灯りがともり、街全体が温かな光に包まれている。
屋台には最後まで多くの人々が集まり、楽団の演奏に合わせて歌い、踊り、笑い合っていた。
祭りの賑わいは夜になっても衰えることなく、フルールの街には幸せそうな笑顔が溢れていた。
その夜。
冒険者ギルドの酒場では、収穫祭の締めくくりとして盛大な宴が開かれていた。
ロシェが豪快に立ち上がり、大きく杯を掲げる。
「みんな、よく集まってくれた!」
「今年も豊作に感謝!」
「そして、『シャルロット薬舗』の活躍に!」
満面の笑みで叫ぶ。
「乾杯!」
「乾杯!」
木製の杯が触れ合い、心地よい音が酒場へ響き渡る。
冒険者たちは大いに笑い、語り合い、料理を囲んで賑やかな時間を過ごしていた。
「シャルロット先生!」
「薬草料理大会、見事だったよ!」
「二日酔い薬にも世話になってるぞ!」
「来年も頼む!」
次々と声を掛けられ、シャルロットは照れくさそうに頭を下げる。
「ありがとうございます」
「これからも皆さんのお役に立てるよう頑張ります」
少し離れた席では、リュンヌが大食い大会優勝の話で盛り上がっていた。
「だから最後の一皿も全部食べたんだ!」
豪快に笑うロシェ。
「さすがだ!」
「俺でも敵わねぇ!」
ルークは冒険者たちと魔法の話で意気投合し、真剣な表情で語り合っている。
ソレイユは料理を取り分けながら、皆の笑顔を見て嬉しそうに微笑んでいた。
エレナもすっかり酒場に馴染み、冒険者たちとの会話を楽しんでいる。
「人間のお祭りも、本当に楽しかったのじゃ」
「また来年も参加したいのじゃ」
その言葉に、冒険者たちも笑顔で頷いた。
「もちろんだ!」
「来年も一緒に楽しもう!」
一方、アマリリスは宙をふわふわ飛び回っている。
「あっ!」
「まだ食べてないお料理がある!」
嬉しそうに屋台料理を見つめる姿に、酒場中が笑い声に包まれた。
シャルロットはそんな仲間たちを静かに見渡した。
追放された、あの日。
自分にはもう帰る場所などないと思っていた。
家も。
家族も。
居場所も。
すべて失ってしまったのだと。
けれど今は違う。
笑い合える仲間がいる。
支え合える家族がいる。
帰れば「おかえり」と迎えてくれる人たちがいる。
守りたいと思える街がある。
シャルロットは酒場いっぱいに広がる笑顔を見つめ、穏やかに微笑んだ。
誰にも聞こえないほど小さな声で、そっと呟く。
「……そうでしたね」
一呼吸置いて、優しく目を細める。
「ここが――」
「私の故郷なんですね」
その言葉は、静かに胸へ染み渡っていく。
血の繋がりがある場所ではない。
生まれ育った場所でもない。
それでも、今の自分が心から帰りたいと思える場所。
それが、フルールだった。
笑い声が響く酒場の中で、シャルロットは幸せそうに杯を掲げる。
こうして収穫祭は幕を閉じる。
そしてシャルロットたちは、新たな日常と、新たな出会いへ向かって歩み始めるのだった。




