第66話 収穫祭
フラム=ヴェル竜王国から帰ってきて数日後。
フルールの街は、一年で最も賑わう日を迎えていた。
秋の実りへ感謝を捧げる――収穫祭。
街中には色鮮やかな旗が飾られ、広場には数え切れないほどの屋台が並ぶ。
焼きたての肉串。
甘い果実飴。
香ばしい焼き菓子。
採れたての果物や野菜。
楽団が奏でる陽気な音楽に合わせ、人々は笑い、踊り、語り合っていた。
街全体がお祭り一色に染まっている。
「すごい人ですね」
シャルロットが思わず周囲を見回した。
ソレイユは目を輝かせる。
「わぁー!」
「楽しそうです!」
リュンヌも嬉しそうに拳を握る。
「今日はいっぱい食べるよ!」
ルークは苦笑した。
「食べ過ぎないようにね」
エレナは初めて見る収穫祭の光景に目を丸くする。
「人間のお祭りは初めてなのじゃ」
「とても賑やかじゃのう」
アマリリスもふわふわと宙を飛びながら辺りを見回した。
「屋台がいっぱい!」
「全部見たい!」
シャルロットは微笑んだ。
「今日は依頼もお仕事もお休みです」
「思い切り楽しみましょう」
「はい!」
元気な返事が重なる。
最初に立ち寄ったのは、香ばしい匂いが漂う焼き串の屋台だった。
「いらっしゃい!」
「焼きたてだよ!」
店主の威勢の良い声が響く。
シャルロットが人数分を注文すると、焼きたての串が次々と手渡された。
「いただきます」
一口頬張る。
肉汁が口いっぱいに広がり、炭火の香ばしい香りが鼻を抜けた。
「美味しいです」
ソレイユも幸せそうに笑う。
「お肉が柔らかいです!」
リュンヌはあっという間に一本食べ終えた。
「もう一本!」
「まだまだ屋台がありますよ」
ルークが苦笑すると、一同は笑い声を上げた。
その後も屋台を巡り歩く。
果実飴。
焼き菓子。
甘い果汁たっぷりの果物。
木彫りの細工。
手作りの装飾品。
見るものすべてが新鮮だった。
「シャルロット!」
エレナが嬉しそうに手招きする。
「見てほしいのじゃ!」
その手には、小さな紅竜を模した木彫りの置物があった。
「可愛いでしょう?」
「はい」
「エレナによく似ていますね」
「本当か!」
エレナは嬉しそうに笑った。
一方、アマリリスは綿菓子をじっと見つめていた。
「これ……雲?」
「綿菓子ですよ」
シャルロットが一つ買って手渡す。
恐る恐る一口食べたアマリリスは目を丸くした。
「わあ!」
「口の中で消えた!」
「すごーい!」
その反応に、一同は思わず吹き出す。
しばらく歩いていると、広場では子どもたちが輪になって踊っていた。
それを見たソレイユも思わず足を止める。
「楽しそう……」
「行ってきてもいいですよ」
シャルロットが微笑むと、ソレイユはぱっと表情を輝かせた。
「はい!」
子どもたちの輪へ駆け込んでいくソレイユ。
その様子を見守りながら、シャルロットは静かに微笑んだ。
実りを祝い、人々が笑顔になる日。
守りたかった平和が、こうして目の前に広がっている。
「……平和ですね」
その小さな呟きに、ルークも穏やかに頷いた。
「うん」
「これからも、この街のみんなが笑って暮らせるといいね」
シャルロットは家族の笑顔を見渡し、小さく頷く。
「はい」
秋空の下。
笑い声と音楽に包まれながら、シャルロットたちは収穫祭の一日を心ゆくまで楽しむのだった。




