第63話 懐かしい面影
宴の準備が進む中。
玉座の間では、使用人たちが慌ただしく料理や酒を運び込んでいた。
その賑わいの中で、ヴォルカンだけは腕を組んだまま、じっとシャルロットを見つめている。
「……むぅ」
あまりにも真剣な眼差しに、シャルロットは少し首を傾げた。
「どうかなさいましたか?」
ヴォルカンは低く呟く。
「……似ておる」
その一言に、玉座の間が静まり返った。
「似ておるのじゃ」
ヴォルカンは懐かしそうに目を細める。
「昔、この国へ何度も来てくれた娘にのう」
シャルロットの胸がどくりと鳴った。
「どなた……ですか?」
ヴォルカンはゆっくりと答える。
「かつて世界を救った、大聖女ミュゲじゃ」
その名を聞いた瞬間。
シャルロットの心臓が大きく跳ねた。
(まさか……。)
(気付かれたのでしょうか……。)
表情は変えないよう努めるものの、胸の内では冷や汗が流れていた。
ヴォルカンはなおもシャルロットを見つめる。
「顔立ちだけではない」
「立ち居振る舞いもじゃ」
「笑った時の雰囲気まで、どこかあやつを思い出す」
ルベリアも静かに頷いた。
「確かに……」
「言われてみれば、少し似ておりますわね」
レオンも興味深そうにシャルロットを見つめる。
「父上がここまで仰るのも珍しいですね」
その時だった。
エレナが一歩前へ出た。
「お父様」
ヴォルカンが「む?」と娘を見る。
エレナは少し頬を膨らませる。
「そんなに見つめたら、シャルロットが困ってしまうのじゃ」
「シャルロットは、わらわの命を助けてくれた大切な恩人なのじゃ」
「きっと照れてしまっておるのじゃ」
シャルロットは思わず苦笑する。
「エレナさん……」
エレナはにっこりと微笑んだ。
「大丈夫なのじゃ」
「お父様に悪気はないのじゃ」
「少し人の話を聞かぬだけなのじゃ」
その言葉に、レオンが吹き出した。
「それは父上の悪い癖ですね」
ルベリアも口元へ手を添え、くすりと笑う。
ヴォルカンは腕を組んだまま、「うーむ……」と唸った。
しばらく考え込んでいたが――。
「ガッハッハッハ!」
突然、豪快に笑い出した。
「そんなわけあるまい!」
「ミュゲは百五十年前の人物じゃ!」
「似ておるとは思ったが、ただの気のせいじゃ!」
「ガッハッハッハ!」
玉座の間にも笑いが広がる。
シャルロットは心の中で、そっと胸を撫で下ろした。
(助かりました……。)
ヴォルカンは豪快な笑みを浮かべたまま、シャルロットの肩をぽんと叩く。
「おぬしは、おぬしじゃ!」
「シャルロットという立派なお嬢さんじゃ!」
「その優しさでエレナを救ってくれた」
「それだけで十分じゃ!」
シャルロットは優しく微笑み、一礼した。
「ありがとうございます」
ヴォルカンは満足そうに大きく頷く。
「よし!」
「難しい話は終わりじゃ!」
「今日は恩人を迎える宴じゃぞ!」
「ガッハッハッハ!」
豪快な笑い声が玉座の間いっぱいに響き渡る。
その笑い声を聞きながら、シャルロットは胸の奥でそっと呟いた。
(ヴォルカン様……。)
(百五十年経っても、本当にお変わりありませんね。)
懐かしい友の変わらぬ姿に、シャルロットは自然と笑みを浮かべるのだった。




