第61話 懐かしい火山
エレナに案内されながら、シャルロットはフラム=ヴェル竜王国の城下町を歩いていた。
赤黒い石畳。
マグナ火山の地熱を利用した鍛冶場。
あちこちから響く槌の音。
露店には色鮮やかな果物や魔鉱石、竜族ならではの工芸品が並び、多くの人々で賑わっている。
その穏やかな光景を眺めながら、シャルロットは自然と笑みを浮かべた。
(懐かしいですね……。)
百五十年前。
魔王討伐の旅では、この国を何度も訪れた。
マグナ火山地帯を越えるため。
魔鉱石の補給を受けるため。
そして、竜族との情報交換を行うため。
そのたびに温かく迎えてくれたのが、紅竜王ヴォルカン夫妻だった。
初めてこの国を訪れた日のことは、今でも鮮明に覚えている。
玉座の間。
ミュゲは丁寧に一礼し、口を開いた。
「紅竜王様」
「フラム=ヴェル竜王国を通過したく存じます」
「お許しいただけないでしょうか」
その瞬間だった。
「ガッハッハッハ!」
豪快な笑い声が玉座の間へ響き渡る。
「まずは葡萄酒でも飲め!」
「話はそれからじゃ!」
「えっ?」
戸惑うミュゲの手を掴み、ヴォルカンはそのまま宴会場へ連れて行ってしまった。
巨大な肉料理。
火山で豪快に焼き上げた魚料理。
焼きたての香ばしいパン。
そして、大樽いっぱいの葡萄酒。
「さあ食え!」
「遠慮はいらん!」
次々と料理が運ばれてくる。
その様子を見て、紅竜王妃ルベリアは困ったように微笑んだ。
「あなた」
「まずはお話を聞いて差し上げてくださいませ」
「む?」
ヴォルカンはようやくミュゲへ向き直る。
「何じゃ?」
「何か用があったのか?」
ミュゲは苦笑しながら答えた。
「先ほどから、そのお話をしていたのですが……」
「ガッハッハッハ!」
「そうじゃったか!」
頭を掻きながら豪快に笑うヴォルカン。
ルベリアは小さくため息をつく。
「ですから、最初からそう仰っていましたでしょう?」
「まあ、細かいことはよい!」
「それで、何じゃ?」
「竜王国を通過する許可をいただきたく……」
「なんじゃ!」
「通るだけなら最初からそう言わんか!」
ヴォルカンは豪快に立ち上がった。
「もちろん許可する!」
「その代わり、帰りにも必ず寄るのじゃぞ!」
「今度はゆっくり酒を飲もうではないか!」
「はい」
思わず笑みがこぼれた。
豪快で、人の話をあまり聞かない。
けれど誰よりも情に厚く、仲間を大切にする竜王。
そして、そんな夫を優しく支えるルベリア。
二人は、ミュゲにとっても大切な友人だった。
「シャルロット?」
エレナが足を止め、振り返る。
「お城までは、もう少しなのじゃ」
シャルロットは我に返り、微笑んだ。
「はい」
エレナの後ろ姿を見つめながら、胸の奥でそっと呟く。
(ヴォルカン様も……。)
(ルベリア様も、お元気でしょうか……。)
懐かしい友との再会を心待ちにしながら、シャルロットはゆっくりと王城への道を歩き始めるのだった。




