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元大聖女シャルロットは、転生してからスローライフを満喫するようです!?  作者: Atelier Lotus


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第60話 フラム=ヴェル竜王国

 旅支度を終えた翌朝。


 シャルロットとエレナは、フルールの街外れまでやって来ていた。


「それでは、行ってまいります」


 シャルロットが一礼すると、ルークたちは笑顔で手を振る。


「いってらっしゃい!」


「気を付けてね!」


 エレナは周囲に人影がないことを確認すると、小さく頷いた。


「では、失礼するのじゃ」


 次の瞬間。


 眩い紅色の光が辺りを包み込んだ。


 光が収まると、そこには一頭の美しい紅竜が姿を現していた。


 燃えるような紅い鱗。


 陽光を浴びて輝く巨大な翼。


 堂々たるその姿は、まるで炎そのものが命を宿したかのような神々しさを放っている。


「……綺麗」


 シャルロットは思わず見惚れた。


 エレナは少し照れくさそうに笑う。


「そう言っていただけると嬉しいのじゃ」


「どうぞ、お乗りくだされ」


 シャルロットは優しくエレナの背へ跨った。


「よろしくお願いします」


 エレナは大きく翼を広げる。


 ドォン――。


 一度羽ばたくと、その巨体は軽々と大地を離れ、一気に大空へ舞い上がった。


「きゃっ!」


 思わずエレナの首へしがみつく。


 足元ではフルールの街がみるみる小さくなり、森や山々が箱庭のように広がっていく。


「た、高いです……!」


 エレナは優しく声を掛けた。


「怖いかの?」


「は、はい……少しだけ……」


「案ずるでない」


「我が必ず守るのじゃ」


 その一言で、不思議と緊張が和らいだ。


 恐る恐る周囲を見渡す。


 どこまでも続く青空。


 白い雲。


 遥か眼下に広がる大地。


 やがて恐怖は薄れ、その壮大な景色に心を奪われていた。


「……すごい」


「こんな景色、初めて見ました」


 エレナは嬉しそうに羽ばたく。


「気に入っていただけて何よりじゃ」


「フラム=ヴェル竜王国は、この大陸の西方にある」


「世界最大級の活火山、マグナ火山を中心として築かれた竜族の国なのじゃ」


 シャルロットは遥か彼方を見つめ、小さく呟いた。


「マグナ火山……」


 その名を聞いた瞬間、胸の奥に眠る記憶が静かによみがえる。


(懐かしいですね……。)


 百五十年前。


 魔王討伐の旅で、この地を何度も訪れた。


 豪快な紅竜王ヴォルカン。


 穏やかで気品あふれる紅竜王妃ルベリア。


 二人は旅のたびに温かく迎え入れてくれた。


 情に厚く、義理堅い竜王夫妻。


 その思い出は、今も色褪せることなく心に残っている。


「シャルロット?」


 エレナの声で我に返る。


「え?」


「何だか、とても懐かしそうな顔をしておったのじゃ」


 シャルロットは少し慌てて微笑んだ。


「景色があまりにも綺麗だったので、見惚れてしまいました」


「そうじゃったか」


 エレナは納得したように頷く。


 しばらく飛び続けると、遥か彼方に巨大な火山群が姿を現した。


 赤黒い岩肌。


 空へ立ち昇る白い噴煙。


 その中心には、雄大なマグナ火山がそびえ立っている。


 さらに麓には、巨大な城壁都市が広がっていた。


 火山を囲むように築かれた堅牢な城壁。


 中央には壮麗な王城がそびえ立ち、竜王国にふさわしい威容を見せている。


「見えてきたのじゃ」


「あれが、フラム=ヴェル竜王国じゃ」


 エレナはゆっくりと高度を下げていく。


 街へ近付くにつれ、人々の姿が見え始めた。


 市場では人間と竜族が肩を並べて買い物をし、鍛冶場からは槌を打つ音が響く。


 広場では子どもたちが元気に駆け回り、人間の子どもと竜族の子どもが一緒になって遊んでいた。


 シャルロットはその光景を見つめ、小さく微笑む。


「……やっぱり」


「人間の王国と変わらないんですね」


 エレナも穏やかに微笑んだ。


「その通りじゃ」


「竜族は魔物ではない」


「エルフやドワーフと並ぶ、有身精霊の一族なのじゃ」


「太古の昔、人との共存を望んだ精霊たちが肉体を得て生まれた種族じゃ」


「普段は人の姿で暮らし、家族と共に生活し、仕事をし、国を築いておる」


「竜の姿になるのは、空を飛ぶ時や戦う時くらいなのじゃ」


 シャルロットは静かに頷いた。


「なるほど……」


(昔と何も変わっていませんね。)


 胸の内でそっと呟く。


「シャルロット?」


 エレナが不思議そうに首を傾げる。


「何か言ったかの?」


 シャルロットははっと我に返り、柔らかく微笑んだ。


「いえ」


「とても素敵な国だなと思いまして」


 エレナは嬉しそうに笑みを浮かべる。


「そう言っていただけると嬉しいのじゃ」


「この世界には五つの竜の国がある」


「白竜皇が治めるアルカ=ヴェル竜皇国」


「紅竜王ヴォルカン様が治めるフラム=ヴェル竜王国」


「黒竜王が治めるノワール=ヴェル竜王国」


「碧竜王が治めるアズール=ヴェル竜王国」


「そして、翠竜王が治めるシルヴァ=ヴェル竜王国じゃ」


「白竜皇は五大竜の頂点に立つ、最も尊き竜」


「ヴァイスラント帝国の歴代皇帝を選定する権限を持ち、他の四竜王も白竜皇へ敬意を払っておる」


「だから我ら竜族にとっても、白竜皇は特別な存在なのじゃ」


 シャルロットは静かに頷きながら、ゆっくりと眼前へ迫る王都を見つめた。


(ヴォルカン様も……。)


(ルベリア様も、お元気でしょうか……。)


 懐かしい友との再会を胸に思い描きながら、シャルロットとエレナはフラム=ヴェル竜王国へと降り立つのだった。

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