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元大聖女シャルロットは、転生してからスローライフを満喫するようです!?  作者: Atelier Lotus


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第55話 新たな一歩

 鉄ランク昇格試験を終えたシャルロットたちは、フルールの街へ帰ってきた。


 見慣れた石畳。


 行き交う人々の笑顔。


 穏やかな街の空気。


「やっぱりフルールは落ち着きますね」


 シャルロットが穏やかに微笑む。


 その時だった。


「みんなー!」


 聞き慣れた元気な声が街中へ響く。


 リュンヌが大きく手を振りながら駆け寄ってきた。


 しかし、シャルロットたちの姿を見た瞬間、その笑顔が崩れる。


「よかった……!」


 真っ先にシャルロットを強く抱き締めた。


「本当に、本当によかった!」


 声は震え、瞳には涙が浮かんでいる。


「ジェネラルオーガが出たって聞いて……」


「もう心配で、心配で……!」


 シャルロットは優しく抱き返した。


「ご心配をおかけしました」


「でも、ご覧の通り皆さん無事です」


 リュンヌは何度も頷きながら涙を拭う。


 そしてルーク、ソレイユ、エレナを順番に抱き締めた。


「誰も欠けてなくて……本当によかった」


 アマリリスも嬉しそうに宙を飛び回る。


「えへへ!」


「みんな元気でよかった!」


 シャルロットはそっとリュンヌの手を握った。


「リュンヌさん」


「ありがとうございます」


 リュンヌは不思議そうに首を傾げる。


「え?」


「試験へ向かう前、『焦らないこと』『仲間を信じること』と送り出してくださいましたよね」


「あの言葉が、ずっと私たちの支えでした」


「だから最後まで諦めずに戦うことができました」


「本当にありがとうございました」


 ルークも微笑みながら頷く。


「僕も何度も思い出してたよ」


「リュンヌ姉ちゃんの言葉」


 ソレイユも元気いっぱいに笑う。


「私も!」


「怖くなった時、ずっと思い出してた!」


 エレナも穏やかに微笑んだ。


「皆の心を支えてくださったのは、リュンヌ殿じゃ」


「我らだけでは乗り越えられなんだ」


 リュンヌは照れくさそうに頭を掻いた。


「もう、みんな大げさだよ」


 そう言いながらも、その瞳には嬉し涙が滲んでいた。


 やがて、ぱっと笑顔になる。


「それと!」


「これでみんな、私と同じ鉄ランクだね!」


 その言葉に、全員が顔を見合わせる。


「はい!」


 シャルロットは嬉しそうに頷いた。


 その日の夜。


 シャルロット薬舗では、ささやかな昇格祝いが開かれていた。


 食卓にはソレイユが腕を振るった料理が並び、部屋いっぱいに温かな香りが広がる。


「鉄ランク昇格、おめでとう!」


 リュンヌが果実酒の杯を掲げる。


「乾杯!」


「乾杯!」


 笑い声が部屋いっぱいへ響く。


 ルークは照れながら笑う。


「まさか、本当に鉄ランクになれるなんて思わなかったよ」


 ソレイユも嬉しそうに頷く。


「これで受けられる依頼も増えるね!」


 エレナも満足そうに微笑んだ。


「皆と一緒だったからこその結果じゃな」


 アマリリスは宙をくるくる回りながら笑う。


「次はもっと強くなろうね!」


 その一言に、皆が思わず吹き出した。


「まだまだ先ですよ」


 シャルロットは苦笑しながら笑う。


 笑い声が絶えない。


 それこそが、シャルロットの守りたかった日常だった。


 それから数か月後――。


 王都ルミエール。


 ルミエール大聖堂、教皇室。


 教皇サンセリテは山積みになった報告書へ静かに目を通していた。


 その傍らには、現代最高峰の聖女ソフィアが控えている。


 一通の報告書へ目を留めた瞬間、サンセリテの手が止まった。


『フルールのダンジョンにて、神話に登場する聖剣を思わせる巨大な光の剣が顕現』


 静かな教皇室に、小さな呟きが響く。


「……巨大な光の剣。」


 報告を届けた神官が一礼する。


「数か月前、フルールで行われた鉄ランク昇格試験の報告です。」


「現地の試験官、受験者、冒険者ギルド職員など五十名以上への聞き取りを終えました。」


「証言には細かな違いこそありますが、一点だけ全員が一致しております。」


「受験者シャルロット・メシャントが巨大な光の剣を顕現させ、ジェネラルオーガを一太刀で討伐したこと。」


「さらに、その直後に致命傷を負ったソレイユという少年を、光によって完全に治癒したことです。」


 サンセリテとソフィアは、ほぼ同時に顔を上げた。


「……まさか。」


 ソフィアが小さく息を呑む。


 サンセリテは静かに報告書を閉じた。


「光の聖剣……そして聖光治癒ですか。」


 若い神官が恐る恐る尋ねる。


「教皇様。」


「あれは光魔法なのでしょうか。」


 サンセリテは静かに頷いた。


「断定はできません。」


「ですが、もし報告が事実なら、最高位光魔法である可能性が極めて高いでしょう。」


 ソフィアが静かに説明を引き継ぐ。


「通常魔法は、魔素から四属性の魔粒子を取り出して発動します。」


「ですが光魔法は、魔素そのものを完全に分解し、その際に生まれる膨大なエネルギーを利用する特殊な魔法体系です。」


「適性者は極めて少なく、歴史上でも数えるほどしか存在しません。」


「そのため、文献もほとんど残されていないのです。」


 サンセリテは続けた。


「光の護身剣、光治癒、浄化などは基本光魔法。」


「さらに、限られた者だけが高位光魔法へ至ります。」


 ソフィアは静かに頷く。


「ですが、光の聖剣と聖光治癒は最高位光魔法です。」


「大聖女ミュゲ様を含めても、歴史上数人しか扱えませんでした。」


 若い神官は驚いた表情で尋ねた。


「聖女ソフィア様でも……。」


 ソフィアは静かに首を横へ振る。


「私は高位光魔法までしか扱えません。」


「最高位光魔法は、私にも届かない領域です。」


 教皇室は静まり返った。


 サンセリテは窓の外へ静かに視線を向ける。


 百五十年前。


 共に旅をし、世界を救った仲間。


 大聖女ミュゲ・ジプソフィルの姿が脳裏をよぎる。


「……まだ結論を出すべきではありません。」


「ですが、もしこの報告が事実なら――」


 静かに呟く。


「ミュゲ様に匹敵する才能を持つ者が現れたのかもしれません。」


 それは転生を意味する言葉ではない。


 百五十年前の大聖女に肩を並べる、新たな光の使い手の出現を予感した言葉だった。


 サンセリテは報告書へもう一度目を落とす。


 そこには、受験者名がはっきりと記されていた。


 『シャルロット・メシャント』


「引き続き、この受験者について情報を集めてください。」


「はっ!」


 神官たちは一礼し、教皇室を後にした。


 教皇の机には、一通の報告書だけが静かに残されている。


 その一番上には、一人の少女の名前が記されていた。


 ――シャルロット・メシャント。


 辺境の小さな街で起きた一つの奇跡。


 その報せは、まだ誰にも知られぬまま、静かに運命の歯車を動かし始めていた。

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