第56話 銀ランクの先輩
鉄ランク昇格から数日後。
シャルロット薬舗には、穏やかな日常が戻っていた。
午前中は薬舗を開き、診療と薬の調合を行う。
午後は冒険者として依頼を受ける。
鉄ランクへ昇格したことで受けられる依頼も増え、シャルロットたちは忙しくも充実した毎日を送っていた。
その日の夕方。
依頼を終えたシャルロットたちは、報酬を受け取るため冒険者ギルドを訪れていた。
「おう!」
酒場中へ響くような豪快な声が飛ぶ。
「嬢ちゃん!」
振り向くと、一人の大柄な男が笑顔で歩いてきた。
日に焼けた肌。
歴戦を物語る傷跡。
背中には巨大な戦斧。
一目で熟練の冒険者だと分かる風格を纏っている。
「聞いたぞ!」
「鉄ランク昇格、おめでとう!」
男は豪快に笑いながら右手を差し出した。
「俺はロシェ」
「銀ランク冒険者だ」
シャルロットは笑顔でその手を握る。
「初めまして」
「シャルロットです」
「こちらは弟のルーク、ソレイユ、リュンヌさん、エレナさんです」
ロシェは一人ひとりを見渡し、満足そうに頷いた。
「若いのに大したもんだ!」
「ジェネラルオーガを倒したって話は、もう街中の噂だぞ!」
その時だった。
「私もいるよー!」
元気な声とともに、アマリリスがふわりと宙へ浮かび上がった。
「よろしくね!」
ロシェの表情が固まる。
「……は?」
酒場も一瞬で静まり返った。
「……浮いた?」
「今、空を飛んでなかったか?」
一人の冒険者が目を擦る。
別の冒険者も青ざめた。
「お、おい……」
「まさか……幽霊か?」
アマリリスは満面の笑みで手を振る。
「そうだよ!」
「アマリリスです!」
その瞬間、酒場中がどよめいた。
「うおおっ!」
「本当に幽霊だ!」
「シャルロット薬舗には幽霊がいるって噂、本当だったのか!」
「初めて見たぞ!」
ロシェも目を丸くしたまま呟く。
「噂には聞いていたが……」
「本当にいたとはな」
アマリリスは胸を張る。
「本物です!」
シャルロットは苦笑しながら紹介した。
「アマリリスさんは、私たちと一緒に暮らしている大切な家族です」
ロシェはしばらくアマリリスを見つめていたが、不意に豪快に笑い出した。
「はっはっはっ!」
「驚かせやがる!」
「だが、幽霊だろうが何だろうが、嬢ちゃんたちの家族なら俺も歓迎だ!」
酒場中の冒険者たちも笑顔になる。
「そういうことなら乾杯だ!」
「アマリリスちゃんも歓迎!」
「乾杯!」
アマリリスも満面の笑みで両手を上げた。
「乾杯ー!」
酒場は一気に笑い声に包まれる。
ロシェは葡萄酒を一口飲み、満足そうに頷いた。
「今日は祝いの日だ」
「難しい話は明日からにしよう」
「明日は、銀ランク冒険者として積み重ねてきた経験を、お前たちに教えてやる」
シャルロットは嬉しそうに頭を下げた。
「よろしくお願いします」
ルークたちも続いて頭を下げる。
「よろしくお願いします!」
リュンヌも笑顔で頭を下げた。
「ロシェさんから教えてもらえるなんて、楽しみです!」
エレナは目を輝かせながらロシェを見上げる。
「ほう!」
「銀ランク冒険者とは、なかなか気前が良いのう!」
「我も遠慮なくご馳走になるのじゃ!」
ロシェは思わず吹き出した。
「ははっ!」
「見た目は可愛い嬢ちゃんだが、中身はずいぶん肝が据わってるな!」
エレナは胸を張る。
「当然じゃ!」
「我は竜じゃからの!」
その言葉に、酒場中から大きな笑いが起こった。
アマリリスも手を叩いて笑う。
「エレナ、かっこいい!」
ロシェは豪快に笑いながら拳を突き上げる。
「ますます気に入った!」
「今日は俺のおごりだ!」
酒場中から歓声が上がる。
「おおーっ!」
「さすがロシェ!」
「太っ腹!」
ロシェは照れくさそうに鼻を鳴らした。
「うるせぇ!」
「祝いの日くらい格好つけさせろ!」
その言葉に、再び酒場は笑い声に包まれた。
こうしてシャルロットたちは、銀ランク冒険者ロシェとの新たな縁を結んだ。
それは、冒険者としてさらに成長するための、新たな出会いの始まりとなるのだった。




