第53話 光の聖剣
ジェネラルオーガの猛攻は止まらなかった。
巨大な大剣が振るわれるたび、大地は砕け、凄まじい衝撃波がダンジョンを揺るがす。
試験官たちも必死に応戦する。
「総員、退避しろ!」
「受験者を守れ!」
怒号が飛び交う。
しかし、圧倒的な力の差の前では、時間を稼ぐことしかできなかった。
「ウインドランス!」
ルークが渾身の風魔法を放つ。
幾本もの風の槍が唸りを上げ、ジェネラルオーガへ襲い掛かる。
だが――。
ガギィィンッ!!
巨大な大盾が正面から受け止め、すべて弾き返した。
「くっ……!」
続けてエレナが両手を突き出す。
「フレイムランス!」
灼熱の炎が一直線に巨体を飲み込む。
しかし炎が晴れても、ジェネラルオーガは微動だにしなかった。
黒褐色の身体には傷一つ付いていない。
「効いておらぬ!」
受験者たちも剣や魔法で必死に立ち向かう。
それでも、誰一人として有効打を与えられなかった。
まるで勝負にならない。
その時だった。
「大丈夫ですか!」
ソレイユが倒れている受験者へ駆け寄る。
「これを飲んでください!」
震える手で回復薬を差し出し、一人でも多くの命を救おうとする。
その姿を――
ジェネラルオーガの赤い双眸が静かに捉えた。
「ソレイユ!」
シャルロットが叫ぶ。
ジェネラルオーガは巨大な大剣を高々と振り上げる。
「間に合え!」
ルークが飛び出す。
「ソレイユ!」
エレナも地を蹴る。
だが――。
届かない。
轟音。
巨大な大剣が容赦なく振り下ろされた。
大地が砕け、土煙が激しく舞い上がる。
次の瞬間。
ソレイユの小さな身体が宙を舞った。
岩壁へ激しく叩きつけられ、そのまま崩れ落ちる。
「ソレイユッ!!」
シャルロットの悲痛な叫びがダンジョン中へ響き渡った。
必死に駆け寄り、その身体を抱き起こす。
「しっかりしてください!」
服は真っ赤に染まり、胸元には深々と裂けた傷。
呼吸は弱く。
意識もない。
震える指先で脈を探る。
「そんな……」
かすかに脈はある。
だが、それは今にも消えてしまいそうなほど弱々しかった。
シャルロットは震える手で回復薬を取り出す。
「お願い……!」
唇へ流し込もうとする。
しかし、飲み込む力はもう残されていない。
「駄目です……」
薬では救えない。
その現実が、薬師であるシャルロットの心を打ち砕いた。
ルークは拳を強く握り締める。
「嘘だろ……」
エレナも膝をつき、唇を震わせた。
「ソレイユ……」
アマリリスは涙を流しながら駆け寄る。
「ソレイユちゃん!」
シャルロットの瞳から、大粒の涙が溢れ落ちる。
薬師として。
これまで数え切れない命を救ってきた。
薬もある。
知識もある。
それなのに。
一番守りたい家族を。
自分の手では救えない。
「嫌です……」
涙が止まらない。
「お願い……」
「死なないで……」
ソレイユの冷え始めた手を強く握り締める。
「守るって……約束したじゃないですか……」
その瞬間だった。
ドクン――。
胸の奥で何かが脈打つ。
温かく。
どこまでも優しい光。
それは遥か昔から、シャルロットの魂に眠り続けていた大聖女の力。
ドクン。
ドクン。
鼓動に合わせるように、眩い光が身体の奥底から溢れ出していく。
頭の奥で、懐かしい声が響いた。
『その願いは、決して無駄ではない』
『大切な者を守りたいと願う心こそ――聖なる力の源』
シャルロットの身体が黄金色の光に包まれる。
「なっ……!」
試験官たちが目を見開いた。
受験者たちも戦うことを忘れ、その神々しい光景に息を呑む。
柔らかな光は瞬く間に輝きを増し、ダンジョン全体を昼間のように照らし出した。
ジェネラルオーガさえ、その神聖な輝きに動きを止める。
シャルロットはゆっくりと立ち上がった。
涙は、もう流れていない。
その瞳に宿るのは、大切な人を守るという揺るぎない決意だけ。
静かに右手を前へ差し出す。
光が集まる。
無数の光の粒子が渦を巻き、一つの形を紡ぎ始めた。
柄が生まれる。
鍔が生まれる。
そして、純白に輝く巨大な刀身が静かに姿を現した。
神々しい輝きを放つ、一振りの聖剣。
初めて握るはずなのに、不思議と違和感はない。
まるで百五十年前から、共に世界を救ってきた相棒が再び手の中へ帰ってきたかのような、懐かしい温もりが掌に伝わる。
シャルロットは静かに、その名を告げた。
「――光の聖剣」
その瞬間。
聖剣から放たれた眩い光がダンジョン全体を包み込んだ。
絶望に染まっていた迷宮は、一瞬にして希望の光で満たされる。
誰もが、その奇跡の光景から目を離すことができなかった。




