第50話 試験前夜
鉄ランク昇格試験を翌日に控えた夕方。
シャルロット薬舗では、明日の試験へ向けた準備が進められていた。
店内には、いつもとは少し違う緊張感が漂っている。
調合室では、シャルロットが回復薬を一本一本丁寧に瓶へ詰めていた。
「中級回復薬が六本」
「解毒薬が三本」
「止血薬も十分ですね」
瓶の状態を確かめながら一本ずつ布へ包み、木箱へ整然と並べていく。
薬師として、準備に妥協は許されない。
その隣では、ソレイユが荷物を確認していた。
「包帯よし!」
「回復薬よし!」
「保存食よし!」
「水筒も大丈夫!」
指差しながら一つひとつ確認し、忘れ物がないか念入りに調べていく。
ルークは愛用の杖を柔らかな布で丁寧に磨いていた。
軽く魔力を流し、問題なく扱えることを確かめる。
「これなら大丈夫だね」
その様子を見ていたエレナは、両手を前へかざした。
すると掌の上へ、小さな火球がふわりと生まれる。
火球はゆらゆらと揺れながら宙に浮かび、やがて静かに消えた。
「うむ!」
「我も魔力は万全じゃ!」
得意げに胸を張るエレナを見て、ルークは思わず笑った。
「エレナは杖がいらないから羨ましいよ」
「我は竜じゃからの!」
エレナはえっへんと胸を張る。
一方、アマリリスは皆の周りをふわりと飛び回りながら、忘れ物がないか見て回っていた。
「あっ、ソレイユ」
「予備の包帯が棚に残ってるわ」
「ほんとだ!」
「ありがとう、アマリリス!」
ソレイユは慌てて包帯を荷物へしまう。
アマリリスは優しく微笑んだ。
「今日は索敵じゃなくて、忘れ物探しね」
その一言に、皆から自然と笑みがこぼれた。
準備が終わると、一同は食卓へ集まる。
テーブルには、ソレイユが腕によりをかけて作った夕食が並んでいた。
温かな料理。
家族の笑顔。
それだけで、張り詰めていた空気が少しずつ和らいでいく。
食事を終えると、リュンヌが一枚の紙を広げた。
「最後に作戦を確認しよう」
皆の表情が引き締まる。
リュンヌは簡単な陣形を書き込みながら説明を始めた。
「私は試験には参加できないけど、今まで教えてきたことを思い出して」
「シャルロットは回復役」
「ルークとエレナは後衛から魔法で援護」
「ソレイユは荷物と回復薬の管理」
「アマリリスは上空から索敵」
「危険があれば、すぐ知らせてね」
アマリリスは力強く頷く。
「任せて!」
「誰よりも早く敵を見つけるわ!」
リュンヌは満足そうに微笑んだ。
「うん。それでいい」
そして四人を見渡す。
「私は試験に出られない」
「だから明日は、みんなだけで戦うことになる」
一瞬だけ寂しそうな表情を浮かべる。
しかし、すぐに笑顔へ戻った。
「でも、心配はしてない」
「この一か月、一緒に戦ってきたから分かる」
「みんななら絶対に大丈夫!」
シャルロットは静かに頷いた。
「はい」
「いつも通りですね」
ルークも微笑む。
「少し緊張するけど……」
「いつも通りやれば大丈夫だよね」
ソレイユは元気いっぱいに拳を握る。
「うん!」
「みんな一緒なら絶対平気!」
エレナも大きく頷いた。
「絶対に合格するのじゃ!」
アマリリスも優しく微笑む。
「帰ってきたら、お祝いをしましょう」
「きっと、みんな笑顔で帰ってくるもの」
その言葉に、皆の表情がさらに和らいだ。
シャルロットは家族一人ひとりの顔を見渡す。
追放されたあの日。
自分は一人だった。
帰る家もなく、頼れる人もいなかった。
けれど今は違う。
共に笑い、支え合い、同じ未来を目指す家族がいる。
だからもう、不安はなかった。
この仲間たちとなら、どんな困難も乗り越えられる。
シャルロットは穏やかに微笑む。
「明日も、よろしくお願いします」
「もちろん!」
元気な返事が店内へ響き渡る。
その夜。
シャルロットたちは明日に備え、いつもより少し早く床に就いた。
鉄ランク昇格試験。
それは冒険者として新たな一歩を踏み出すための試練。
そして――。
シャルロットたちの運命を大きく動かす、一日の幕開けとなるのだった。




