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第3話 五十年前の真実

 翌日の午後。


 王都ルミエールの屋敷を、一人の来客が訪れていた。


 長く美しい銀髪。


 透き通るような白い肌。


 長命種エルフならではの整った顔立ちは、百五十年前とほとんど変わらない。


「久しいな、ミュゲ」


 穏やかな声とともに部屋へ入ってきたのは、エルフの大魔術師サンセリテだった。


「来てくださったのですね」


 寝台の上で微笑むミュゲに、サンセリテも静かに笑みを返す。


「ああ」


「約束したからな」


 二人は自然と笑い合う。


 戦友だからこその、言葉少ない再会だった。


 使用人たちは静かに部屋を後にし、室内には二人だけが残る。


 最初は他愛もない昔話だった。


 聖騎士アーサーは誰よりも朝が早かったこと。


 暗黒騎士アデラーンは無愛想なくせに甘い物が好きだったこと。


 クロエは研究へ夢中になり、徹夜ばかりして皆を困らせていたこと。


 思い出話は尽きなかった。


 笑い合うその時間は、まるで五十年前へ戻ったかのようだった。


 しかし、その穏やかな空気は、サンセリテの一言で静かに変わる。


「……封印は、まだ保っている」


 ミュゲは静かに頷いた。


「そうですか」


「だが、永遠ではない」


 サンセリテはゆっくりと続ける。


「僅かではあるが、綻び始めている」


 その言葉に、ミュゲは驚くことなく目を閉じた。


「やはり……」


 まるで、その日が来ることをずっと覚悟していたかのようだった。


 五十年前。


 魔王ニコラスは討ち果たした。


 それは間違いない。


 しかし――。


「あれだけは、最後まで破壊できなかった」


 サンセリテが静かに呟く。


 魔王因子。


 正式名称――魔核融合体。


 魔王ニコラスが遺した、究極の魔導機関。


 全盛期の大聖女ミュゲでさえ、その存在を消し去ることは叶わなかった。


「私にできたのは……封印することだけでした」


 ミュゲは少し寂しそうに微笑む。


 あの戦いで、自分は全力を尽くした。


 それでも届かなかった。


 それが唯一の心残りだった。


「悔いているのか」


 サンセリテの問いに、ミュゲはゆっくりと首を横へ振る。


「いいえ」


「私にできる最善は尽くしました」


「ですが……」


 言葉が途切れる。


 窓の外では、春風が花々を優しく揺らしていた。


「いつか封印は限界を迎えます」


「その時、この世界は再び試されるでしょう」


 サンセリテは力強く頷く。


「ああ」


「だから私は、生き続けてきた」


 五十年間。


 封印を守り続けること。


 それが、魔王討伐を生き延びた自分の使命だった。


 ミュゲは穏やかな笑みを浮かべる。


「あなたになら、未来を託せます」


 その言葉を受け、サンセリテは静かに目を閉じた。


「必ず約束しよう」


「今度こそ、この戦いに終止符を打つ」


 その誓いは、百五十年という時を越え、未来へと受け継がれていく。


 そして、この静かな語らいこそが、新たな物語の始まりとなるのだった。

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