第47話 初めてのパーティ依頼
家族全員が『シャルロット薬舗』の仲間となった翌朝。
シャルロットたちは、いつもより少し早く冒険者ギルドを訪れていた。
受付前には朝から多くの冒険者が集まり、依頼掲示板を眺めている。
「今日から、みんなで依頼を受けるんですね」
シャルロットが少し緊張した面持ちで呟く。
隣に立つリュンヌは、にこりと笑った。
「うん。でも最初から無理は禁物だよ」
「まずは、みんなの連携を覚えることが一番だからね」
二人は依頼掲示板の前へ向かった。
薬草採集。
護衛。
素材採取。
魔物討伐。
数多く並ぶ依頼書の中から、リュンヌは一枚を手に取る。
「これにしよう」
依頼内容は、街道近くの森へ現れたゴブリン三体の討伐。
青銅ランク向けの依頼だった。
「このくらいなら、初依頼にはちょうどいいよ」
シャルロットたちは顔を見合わせ、一斉に頷いた。
こうして、『シャルロット薬舗』最初の依頼が始まった。
フルール郊外の森。
木漏れ日が降り注ぐ森の中を、五人は慎重に進んでいた。
その少し上空では、アマリリスがふわりと浮かびながら周囲を見渡している。
幽霊である彼女は木々や岩を自由にすり抜けることができ、上空から広い範囲を見渡せる。
冒険者ではない。
それでも、大切な家族を守るため、自ら索敵役を買って出ていた。
しばらく進むと、アマリリスが小さく声を上げた。
「みんな、止まって」
「右前方の木の陰」
「ゴブリンが三体いるわ」
その報告を受け、全員が身構える。
リュンヌは戦槌を肩へ担いだ。
「私が前に出るね」
エレナは嬉しそうに頷く。
「我は後ろから魔法で援護する!」
ルークも杖を握り直した。
「僕も援護するよ」
ソレイユは背負った荷物を確認する。
「回復薬も包帯も大丈夫!」
「補給は僕に任せて!」
シャルロットは仲間たちを見渡した。
「無理だけはしないでください」
「危なくなったら、すぐ下がってください」
「回復は私が担当します」
それぞれが頷き、ゆっくりと前へ進む。
やがて茂みが揺れ、三体のゴブリンが姿を現した。
「ギギッ!」
鋭い鳴き声とともに飛び掛かってくる。
「行くよ!」
リュンヌが真っ先に飛び出した。
戦槌が豪快に風を切り、一体目のゴブリンを吹き飛ばす。
「すごい……!」
シャルロットは思わず息を呑んだ。
しかし残る二体は左右へ散開する。
「ルーク!」
「うん!」
ルークは杖を突き出した。
「水球!」
二つの水球が放たれ、ゴブリンの視界を遮る。
「今じゃ!」
エレナが魔力を集中させる。
「火球!」
火球が一直線に飛び、ゴブリンの足元で炸裂した。
体勢を崩した一体を、リュンヌが戦槌で叩き伏せる。
残る一体はシャルロットへ向かって一直線に突進した。
「お姉ちゃん!」
ソレイユが叫ぶ。
シャルロットは慌てず一歩だけ身を引く。
その瞬間だった。
「させない!」
リュンヌが横から体当たりを決め、ゴブリンは木へ激突した。
やがて三体とも動かなくなり、森に静けさが戻る。
「初依頼成功!」
ソレイユが嬉しそうに飛び跳ねる。
アマリリスも上空から拍手を送った。
「みんな、お疲れさま!」
リュンヌは腰のナイフを取り出し、倒れたゴブリンの胸元を慎重に切り開く。
そして、小さな袋状の器官を取り出した。
「これが魔素袋だよ」
シャルロットは興味深そうに覗き込む。
「これが……魔素袋」
リュンヌは頷いた。
「魔物は、この魔素袋に大量の魔素を蓄えているの」
「だから普通の動物より強くなったり、魔法を使えたりするんだよ」
ルークが尋ねる。
「魔石じゃないんだ?」
「うん」
リュンヌは笑顔で説明した。
「魔石は魔鉱石を精製して作るものなの」
「魔物から採れるのは魔素袋だよ」
「ギルドが討伐証明として買い取ってくれるし、魔道具や薬の材料にもなるんだ」
シャルロットは納得したように頷く。
「なるほど……」
「魔物も無駄になるものはないんですね」
「そういうこと!」
リュンヌは魔素袋を丁寧に布へ包んだ。
「素材を持ち帰るところまでが冒険者の仕事なんだ」
シャルロットは新たな知識を胸に刻みながら微笑んだ。
戦うだけではない。
自然の恵みを人々の暮らしへ繋げることもまた、冒険者の大切な役目なのだ。
リュンヌは仲間たちを見渡し、満足そうに笑う。
「今日は初依頼だから百点!」
「でも、本当の冒険はこれからだよ」
「もっと強い魔物も、もっと危険な依頼も待ってる」
「みんなで少しずつ強くなろう」
「はい!」
家族全員の返事が森に響く。
シャルロットは皆の顔を見渡した。
薬師として皆を支える自分。
魔法で援護するルーク。
最前線で仲間を守るリュンヌ。
強力な魔法を操るエレナ。
補給と応急処置を担うソレイユ。
そして、誰よりも早く危険を見つけ、陰から仲間を支えるアマリリス。
一人ではできないことも、この家族となら乗り越えられる。
そんな確かな手応えを胸に、シャルロットは穏やかに微笑んだ。
「帰りましょう」
「今日の経験を、次の依頼へ活かしましょう」
『シャルロット薬舗』は、この日、冒険者として確かな第一歩を踏み出した。
それはやがて、多くの人々を救い、世界を守る伝説のパーティーへと繋がる、小さくも確かな始まりとなるのだった。




