第44話 無罪
静まり返った法廷。
ジュリアンの証言が終わると、裁判長は押収された証拠と照らし合わせながら、一つひとつ慎重に確認していった。
法廷には誰一人として声を発する者はいない。
やがて裁判長は静かに顔を上げ、厳かな声で判決を告げた。
「判決を言い渡します」
誰もが固唾を呑んで、その言葉を待つ。
「被告、シャルロット」
「本件について、被告が毒物を混入した事実は認められません」
「提出された証拠は改ざんされたものであり、被告が事件に関与していないことは明白です」
一拍の静寂。
そして裁判長は力強く宣言した。
「よって、被告シャルロットに――無罪を言い渡します」
その瞬間。
法廷中が歓声に包まれた。
「お姉ちゃん!」
ソレイユは涙を流しながら駆け寄る。
ルークは安堵したように大きく息を吐き、リュンヌは満面の笑みを浮かべた。
「よかった……!」
エレナは思わず飛び跳ねる。
「やったぞ!」
「シャルロット!」
アマリリスも両手で口元を押さえ、涙を零しながら笑っていた。
「本当に……本当によかった……」
シャルロットは皆の笑顔を見渡し、優しく微笑んだ。
その笑顔は、拘置所で見せていたものと何一つ変わらなかった。
一方、裁判長は厳しい眼差しをテオドールとルシアンへ向ける。
「テオドール・ベルナール」
「ルシアン・ベルモン」
「両名を、証拠改ざん、偽証教唆、業務上過失、その他の容疑により拘束します」
「な……!」
二人は青ざめた顔で後ずさる。
「私は悪くない!」
「全部こいつが――!」
最後まで責任を押し付け合う二人だったが、その声も虚しく、王国騎士によって拘束され、法廷から連行されていった。
静けさが戻ると、ジュリアンはゆっくりとシャルロットの前へ歩み寄った。
そして深く頭を下げる。
「申し訳……ありませんでした」
震える声だった。
シャルロットは穏やかに微笑む。
「先生が勇気を出してくださったから、真実が明らかになりました」
「ありがとうございました」
ジュリアンは涙を流しながら何度も頭を下げた。
「……ありがとうございます」
「私は、一生この罪を忘れません」
法廷を出ると、シャルロットの無罪を聞きつけた街の人々が大勢集まっていた。
一人の女性が人混みの中から歩み出る。
シャルロットの前まで来ると、深々と頭を下げた。
「申し訳ありませんでした」
「私……先生のことを疑ってしまいました」
その言葉をきっかけに、人々は次々と頭を下げ始める。
「本当にすみませんでした」
「先生を信じ切れませんでした」
「どうか、お許しください」
シャルロットは困ったように微笑み、静かに首を横へ振った。
「皆さん、顔を上げてください」
「私は、もう気にしていません」
「皆さんが無事でいてくださることが、私には何より嬉しいのです」
その優しい言葉に、多くの人々が涙を流した。
その時、一人の騎士が辺境伯エリアスのもとへ駆け寄る。
「辺境伯様!」
「ご嫡男様が、ただ今意識を取り戻されました!」
エリアスは目を見開き、静かに胸へ手を当てた。
「……そうか」
「本当に、よかった」
心から安堵した表情を浮かべると、エリアスは改めてシャルロットの前へ歩み出た。
そして深々と頭を下げる。
「シャルロット殿」
「今回の事件で、あなたを巻き込む結果となってしまった」
「領主として、心よりお詫び申し上げる」
周囲は息を呑んだ。
辺境伯自らが、一人の薬師へ頭を下げたのである。
シャルロットは慌てて首を横へ振る。
「エリアス様、お顔を上げてください」
「悪いのは事件を起こした方々です」
「エリアス様も、ご家族が被害に遭われた被害者のお一人です」
「それでも最後まで私を信じ、真実を追い続けてくださいました」
「そのおかげで、私は救われました」
エリアスは静かに顔を上げる。
その瞳には、深い敬意が宿っていた。
「シャルロット殿」
「あなたは優れた薬師であるだけではない」
「真に人を救うことのできる、尊敬すべき人物だ」
シャルロットは少し照れくさそうに微笑んだ。
こうして、シャルロット薬舗事件は幕を閉じた。
失われた信頼は取り戻され、真実はすべての人々の前に明らかとなる。
そしてフルールの人々は改めて知る。
シャルロットという少女が、人を救うのは薬だけではない。
その優しさと、決して誰かを憎まない強さこそが、多くの人々の心を救っていたのだということを。




