第42話 真実の扉
翌朝。
ソレイユたちはアマリリスと共に辺境伯家を訪れていた。
応接室では、辺境伯エリアスが静かに一同を迎える。
「何か分かったようだな」
ソレイユは大きく頷いた。
「昨夜、アマリリスが中央医療院へ潜入しました」
「そこで院長たちの話を聞いたんです」
「本物の納品台帳や受領書、処方記録、それに廃棄記録は、中央医療院の地下文書庫へ隠されているそうです」
エリアスは腕を組み、静かに問いかけた。
「一つ聞こう」
「なぜ地下文書庫に証拠があると分かったのだ」
その時だった。
アマリリスがふわりと宙へ浮かぶ。
「私が調べてきたからよ!」
透き通る身体を見たエリアスと執事は思わず息を呑んだ。
「ゆ、幽霊……!」
アマリリスは胸を張る。
「昨日の夜、中央医療院へ潜入して、テオドールとルシアンの話を聞いてきたの!」
そう言うと、壁をすっとすり抜けてみせた。
エリアスは驚きを隠せなかったが、やがて静かに頷く。
「常識では考えられぬ話だ」
「だが、これまでの証拠の食い違いを考えれば辻褄は合う」
そう言って立ち上がる。
「被害者は我が家だ」
「辺境伯エリアス・フルーレの名において、中央医療院の再捜索を正式に要請する」
辺境伯家からの正式な要請を受け、裁判所は直ちに捜索令状を発行した。
王国騎士団は中央医療院へ向かう。
「捜索令状です」
「中央医療院地下文書庫を捜索します」
令状を示されたテオドールとルシアンは、一瞬だけ表情を強張らせた。
騎士たちは地下文書庫へ入り、保管されていた箱を一つずつ開けていく。
そして――。
「隊長!」
「ありました!」
本物の納品台帳。
本物の受領書。
本物の処方記録。
本物の廃棄記録。
次々と押収されていく。
担当騎士は第一公判で提出された帳簿と見比べ、静かに報告した。
「納品先、数量、日付、すべて一致しません」
「第一公判で提出された帳簿は偽造です」
決定的な証拠だった。
テオドールとルシアンは顔を青ざめさせ、言葉を失う。
担当騎士は押収した証拠を部下へ預けると命じた。
「ジュリアン医師を事情聴取室へ」
「はっ!」
その日の午後。
王国騎士団事情聴取室。
机の上には、押収された帳簿や受領書が並べられていた。
ジュリアンはそれを見た瞬間、小さく息を呑む。
「……見つかったんですね」
担当騎士は静かに問いかけた。
「ジュリアン医師」
「これでも、まだ第一公判と同じ証言を続けますか」
部屋の後方では、立会人としてエリアスとソレイユたちが見守っていた。
ソレイユは真っ直ぐジュリアンを見つめる。
「先生」
「本当のことを話してください」
ルークも続けた。
「もう隠す必要はありません」
リュンヌは静かに言う。
「先生、その顔は嘘をつく人の顔じゃないよ」
「誰かに苦しめられている顔だよ」
エレナも一歩前へ出る。
「頼む」
「シャルロットを助けてほしいのじゃ」
ジュリアンは震える手で机の上の帳簿を見つめた。
瞳には涙が滲んでいる。
何度も口を開こうとする。
だが、そのたびにテオドールの言葉が脳裏によみがえった。
『恩師も』
『母親も』
『妹も』
『すべてを失うことになる』
震える唇から漏れたのは、小さな一言だけだった。
「……できません」
力なく首を横へ振る。
ソレイユは悲しそうに俯いた。
「先生……」
ルークは拳を握り締める。
「やっぱり」
「先生には、まだ真実を話せない理由があるんだ」
リュンヌも静かに頷いた。
「一人で全部抱え込んでるんだね……」
エレナは悔しそうに拳を震わせる。
「どうしてじゃ!」
「シャルロットは今も拘置所におるというのに!」
ジュリアンは何も答えなかった。
ただ一筋の涙だけが頬を伝い、静かに机の上へ落ちる。
その姿は、まるで見えない鎖に心を縛られているかのようだった。
事情聴取室を後にした一同は、廊下を静かに歩いていた。
誰も口を開かない。
重苦しい沈黙だけが流れる。
やがてソレイユが立ち止まり、小さく呟いた。
「先生……あんなに苦しそうだった」
「本当は話したいんだよね」
ルークは静かに頷く。
「うん」
「姉さんの言った通りだった」
リュンヌも大きく息を吐いた。
「最初は先生のことが許せなかった」
「でも今は違う」
「あの人も苦しんでるんだね」
エレナは悔しそうに唇を噛む。
「じゃが、シャルロットにはもう時間がないのじゃ……」
アマリリスも胸へ手を当て、不安そうに呟いた。
「あと少しなのに……」
その時、エリアスが静かに口を開く。
「諦めるにはまだ早い」
一同が顔を上げた。
「本物の帳簿は押収した」
「これだけでも第一公判の証拠は崩れた」
「次の公判で、必ず状況は動く」
その力強い言葉に、ソレイユは涙を拭い、真っ直ぐ前を向く。
「はい」
「絶対に、お姉ちゃんを助けます」
ルークも頷いた。
「必ず」
リュンヌは拳を握る。
「最後まで諦めないよ」
エレナは力強く頷いた。
「もちろんじゃ!」
アマリリスも笑顔を浮かべる。
「シャルロットは一人じゃないもの」
それぞれが胸に決意を抱きながら、一同は第二公判の日を待つのだった。




