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元大聖女シャルロットは、転生してからスローライフを満喫するようです!?  作者: Atelier Lotus


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第37話 第一公判

 数日後。


 フルール地方裁判所。


 法廷には朝早くから多くの傍聴人が詰めかけていた。


 街で評判の薬師、シャルロット。


 辺境伯家嫡男毒物混入事件。


 第一回公判とあって、法廷は張り詰めた空気に包まれている。


 被告席にはシャルロットが静かに立っていた。


 その表情に怯えはない。


 ただ真っ直ぐ裁判長を見つめている。


 傍聴席にはソレイユ、ルーク、リュンヌ、エレナの姿があった。


 そして、被害者の父である辺境伯エリアスも静かに開廷を待っていた。


 やがて裁判長が木槌を打つ。


「これより、辺境伯家嫡男毒物混入事件の審理を開始します」


 検察官が立ち上がった。


「提出する証拠は五点です」


 最初に示されたのは、事件当日に使用されたポーションだった。


 薬師による鑑定結果が読み上げられる。


「当該ポーションより毒草成分を検出」


 続いて封蝋。


 瓶に残されていた封印は、『シャルロット薬舗』のものと一致していた。


 さらに納品台帳。


 受領書。


 処方記録。


 事件当日に辺境伯家へ納品されたことを示す記録が、次々と提出される。


 法廷がざわめく。


 検察官は静かに告げた。


「以上の証拠より、事件に使用されたポーションはシャルロット薬舗から納品されたものであると判断します」


 続いて証人尋問が始まった。


 最初に証言台へ立ったのは、中央医療院院長テオドールだった。


 彼は辺境伯へ深々と頭を下げる。


「まず初めに、ご子息を危険な目に遭わせてしまいましたことを、医療院を代表して心よりお詫び申し上げます」


 法廷は静まり返る。


 テオドールは悲痛な表情を浮かべたまま続けた。


「私は医師として、患者を救うことを使命としております」


「シャルロット殿が優秀な薬師であることも存じております」


 傍聴席が小さくざわめく。


「だからこそ、この事件を信じたくありませんでした」


「何度も記録を確認しました」


「何かの間違いであってほしいと願いました」


 テオドールは提出された証拠へ静かに目を向ける。


「ですが、封蝋、納品台帳、受領書、処方記録、そのすべてが一致しております」


「私も残念でなりません」


「ですが、医師として事実を曲げることはできません」


 その誠実な証言に、多くの傍聴人が頷いていた。


 続いて、『ラ・フィオール調薬院』院長ルシアンが証言台へ立つ。


 ルシアンは静かに一礼し、穏やかな口調で語り始めた。


「私は長年、薬師として多くの患者と向き合ってまいりました」


「シャルロット殿が優秀な薬師であることも、よく存じております」


 法廷は再び静まり返る。


「だからこそ、この事件に関わっているとは信じたくありませんでした」


「納品記録も受領書も、何度も確認いたしました」


「何かの間違いであってほしいと願っておりました」


 ルシアンは悲しげに目を伏せる。


「ですが、調査の結果は変わりませんでした」


「納品台帳、受領書、処方記録、そのすべてが一致しております」


「提出された記録に誤りはありません」


「事件のポーションは、記録上シャルロット薬舗から納品されたものです」


 一呼吸置き、小さく息をつく。


「同じ薬師として、このような証言をしなければならないことを、大変残念に思います」


 その沈痛な表情に、法廷は再び静まり返った。


 傍聴席からは、


「ルシアン先生まで、ああ言うなら……」


「やっぱり本当なのか……」


 そんな囁きが漏れ始める。


 そして最後の証人が呼ばれた。


「ジュリアン・モロー」


 青年医師ジュリアンは、青ざめた顔で証言台へ向かった。


 その手は小さく震えている。


「証人」


「提出された記録に誤りはありませんか」


 ジュリアンは答えられなかった。


 視線の先には、被告席のシャルロットがいる。


 シャルロットは何も言わない。


 ただ静かに彼を見つめていた。


 責めることもなく。


 疑うこともなく。


 その穏やかな眼差しが、ジュリアンの胸を締めつける。


 地下保管庫で見た光景が脳裏によみがえった。


 すり替えられたポーション。


 書き換えられていく記録。


 そして院長の冷たい言葉。


『君は何も見ていない』


『今日ここで見たことは、一生口外するな』


 法廷を重い沈黙が包む。


 やがてジュリアンは唇を強く噛み締め、小さく答えた。


「……ありません」


 震える声だった。


 答えた直後、彼はシャルロットから目を逸らし、深く俯く。


 誰にも気付かれぬよう握り締めた拳だけが、小刻みに震えていた。


 裁判長は提出された証拠と証言を静かに見渡す。


 現時点で証拠に矛盾はない。


 証言も一致している。


 しばらく思案した後、静かに判決を告げた。


「現段階では、さらなる審理が必要と判断します」


「よって、本件の判決は保留」


「被告シャルロットの勾留継続を命じます」


 木槌の音が法廷へ響き渡る。


 第一回公判は閉廷した。


 傍聴席では、辺境伯エリアスが静かに目を閉じる。


 証拠は揃っている。


 証言にも矛盾はない。


 それでも胸の奥に残る違和感だけは、どうしても消えなかった。


「……本当に、あの薬師なのか」


 その小さな疑問こそが、事件の真相へ辿り着く最初の一歩となることを、この時はまだ誰も知らなかった。

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