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元大聖女シャルロットは、転生してからスローライフを満喫するようです!?  作者: Atelier Lotus


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第33話 忍び寄る影

 フルールの街は、今日も穏やかな朝を迎えていた。


「シャルロットさん、いつもの咳止めをお願いします」


「先生、この前のお薬、本当によく効きました」


「今日は腰痛薬をお願いできますか」


 『シャルロット薬舗』の店内には、開店直後から多くの患者が訪れていた。


 受付ではソレイユが笑顔で患者を迎え、ルークは棚に並ぶ薬の在庫を確認している。


 リュンヌは大きな薬箱を軽々と運び、エレナは待合室で子どもたちの遊び相手をしていた。


 そしてアマリリスは、ふわりと壁をすり抜けながら店の周囲を見回っていた。


「異常なーし!」


 元気よく戻ってくるアマリリスに、ソレイユが笑顔を向ける。


「ありがとう、アマリリスさん」


「えへへ!」


「幽霊だから、こういう見回りは得意なんだ!」


 忙しくも温かな空気が店内を包んでいる。


「では、次の方どうぞ」


 白衣姿のシャルロットは、一人ひとりの症状を丁寧に聞き取り、その場で薬を調合していく。


 薬を受け取った患者たちは皆、安心したような笑顔で店を後にした。


「やっぱりシャルロット先生の薬が一番だ」


「安いのによく効くから助かるよ」


「もう中央医療院へ行くことはなくなったな」


 そんな評判は日に日に広まり、『シャルロット薬舗』はフルール屈指の人気薬舗へと成長していた。


 その一方で、この繁盛を快く思わない者たちもいた。



 フルール中央医療院。


 院長室では、院長テオドールが収支報告書を睨みつけていた。


「また患者数が減ったのか」


 苛立ちを隠せず、書類を机へ叩きつける。


 向かいに座る老舗『ラ・フィオール調薬院』院長ルシアンも、険しい表情で頷いた。


「調薬院への注文も激減しております」


「街の薬の需要が、そのままシャルロット薬舗へ流れております」


 以前なら、薬が必要になれば中央医療院かラ・フィオール調薬院を訪れるのが当たり前だった。


 しかし今では違う。


 軽い病気や怪我であれば、多くの住民が真っ先にシャルロット薬舗を訪れる。


「たかが小娘一人に、ここまで追い詰められるとは……」


 テオドールは奥歯を噛み締めた。


「このままでは医療院の経営も立ち行かなくなるでしょう」


 ルシアンの言葉に、重苦しい沈黙が流れる。


 その時だった。


 院長室の扉が勢いよく開かれた。


「院長、大変です!」


 飛び込んできた看護師は、血の気を失った顔で叫ぶ。


「辺境伯家のご嫡男様が急変しました!」


「何だと!」


 二人は同時に立ち上がった。


「服用されたポーションから毒草反応が出ています!」


 その一言で、二人の顔色は一変する。


 慌てて治療室へ駆け込むと、辺境伯エリアスの嫡男が苦しげに呼吸を繰り返し、医師たちが必死に処置を続けていた。


「解毒剤を急げ!」


「脈が弱い!」


「急げ! まだ間に合う!」


 怒号が飛び交う中、懸命な治療が続く。


 解毒剤が投与され、長い時間をかけて容体はようやく安定した。


 しかし――。


 嫡男は意識を取り戻すことなく、深い昏睡状態に陥っていた。


 命は繋ぎ止めた。


 だが、いつ目を覚ますのか、それとも二度と目覚めないのか。


 それは誰にも分からなかった。


 そして、その傍らに残された一本のポーションが、新たな悲劇の始まりを告げていた。


 調査を行った薬師が、震える声で報告する。


「……毒草が混入しています」


 室内は静まり返った。


 中央医療院で調製したポーションに毒草が混入していた。


 もしこの事実が公になれば、医療院の信用は地に落ちる。


 薬を納めたラ・フィオール調薬院も責任を免れない。


 長年積み重ねてきた信頼は、一瞬で崩れ去るだろう。


 院長室へ戻ったテオドールは、力なく椅子へ腰を下ろした。


「……終わったな」


 ルシアンも青ざめた表情で俯く。


「被害者は辺境伯家のご嫡男です」


「この事件は必ず王都まで報告されるでしょう」


 再び重い沈黙が流れる。


 やがてテオドールは、ゆっくりと顔を上げた。


 その瞳には、医師としての良心はもはや残っていなかった。


「終わらせるわけにはいかん」


「院長……?」


「事故を、他人へ背負わせればいい」


 ルシアンは息を呑む。


「まさか……」


 テオドールは静かに口元を歪めた。


「街中が信頼している薬舗があるだろう」


「……シャルロット薬舗」


「証拠さえ揃えば、人は真実ではなく証拠を信じる」


 その低い声には、底知れぬ悪意が滲んでいた。


 二人は静かに視線を交わす。


 そしてその瞬間。


 シャルロットを陥れる陰謀が、誰にも知られることなく静かに動き始めたのだった。

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