第30話 新しい日常
『シャルロット薬舗』が開店してから数週間。
薬舗は少しずつ街の人々にも知られるようになり、毎日多くの患者が訪れるようになっていた。
朝。
薬舗の一日は、ソレイユが店の扉を開けるところから始まる。
「おはようございます!」
「シャルロット薬舗、本日も開店です!」
元気いっぱいの声が街へ響く。
「今日も元気だねぇ」
近所の人が笑顔で声を掛ける。
「はい!」
ソレイユは満面の笑みで頷いた。
受付では来店した患者を笑顔で迎え、順番を案内する。
まだ慣れないことも多い。
それでも一生懸命働く姿は、街の人々にも少しずつ親しまれるようになっていた。
一方、ルークは薬棚の前で在庫を確認している。
「解熱薬は残り五本……」
「胃薬も今日中に補充した方が良さそうだね」
薬草や薬の在庫を細かく管理し、不足があればすぐにシャルロットへ伝える。
真面目で几帳面なルークのおかげで、薬舗の仕事が滞ることは一度もなかった。
リュンヌは大きな木箱を軽々と抱え、倉庫と店内を何度も往復している。
「よいしょっと!」
「力仕事なら任せて!」
採集した薬草の運搬や荷物の整理は、すっかり彼女の担当になっていた。
「頼もしいお嬢さんだねぇ」
患者からそう声を掛けられるたび、リュンヌは照れくさそうに笑っていた。
エレナは店先へ椅子を置き、街の様子を静かに眺めている。
「今日も平和じゃな」
そう呟きながらも、重い荷物を運べず困っている老人や、転びそうになった子どもを見つければ、さりげなく手を貸していた。
ぶっきらぼうに見えて、とても面倒見が良い。
そんな一面も、街の人々には少しずつ伝わり始めていた。
そしてアマリリスは、屋敷の中をふわふわと飛び回っている。
「ほこり発見!」
「えいっ!」
実体を持たない幽霊ではあるが、生前の未練から生まれた”念”の力によって物を持ち、動かすことができる。
机や棚を丁寧に掃除し、満足そうに頷く。
「今日もぴかぴか!」
誰かに褒められるわけではない。
それでも家族の役に立てることが、アマリリスには何より嬉しかった。
店の奥では、シャルロットが患者一人ひとりと丁寧に向き合っていた。
症状を聞き。
生活習慣を尋ね。
その人に最も合った薬を調合する。
決して流れ作業にはしない。
一人ひとりへ寄り添うこと。
それがシャルロットの信条だった。
「先生のお薬、本当によく効きました」
「ありがとう」
感謝の言葉を受けるたび、シャルロットは穏やかに微笑む。
「お大事になさってください」
その優しい笑顔は、患者だけでなく、仲間たちの心まで温かくしていた。
営業を終えた夕暮れ。
一同は食卓を囲み、今日あった出来事を楽しそうに語り合う。
ソレイユの失敗談に皆が笑い、
リュンヌは山盛りのおかわりを頬張る。
エレナは呆れたように笑い、
アマリリスは楽しそうに宙をくるくる回る。
ルークはそんな家族の姿を、穏やかな表情で見つめていた。
血の繋がりも、種族も違う。
それでも同じ屋根の下で暮らし、
同じ食卓を囲み、
同じ時間を笑って過ごす。
忙しくも穏やかな毎日。
笑い声の絶えない日々。
シャルロットは、この何気ない日常こそが、前世では手に入れることのできなかった、何よりも大切な宝物なのだと静かに実感する。
そんな温かな日々は、これからも変わることなく続いていく――。




