第27話 古びた屋敷
エレナが家族へ加わってから数日。
宿での暮らしは賑やかだったが、人数が増えたことで部屋も手狭になっていた。
朝食を終えたシャルロットは、皆を見渡して穏やかに微笑む。
「そろそろ、みんなで暮らせる家を探しましょう」
その一言に、ソレイユが目を輝かせた。
「家!」
ルークも嬉しそうに頷く。
「みんな一緒に暮らせるんだね」
リュンヌは元気よく拳を突き上げた。
「よーし! 家探しだ!」
エレナも微笑みながら頷く。
「楽しみじゃな」
こうして一行は、不動産屋を訪れることになった。
店主は街の地図を広げ、何軒もの物件を紹介してくれる。
しかし、人数に対して狭かったり、価格が高かったりと、なかなか条件に合う家は見つからない。
しばらく考え込んだ店主は、一枚だけ別の図面を取り出した。
「実は、もう一軒だけございます」
「ただ……あまりおすすめはできません」
「どうしてですか?」
シャルロットが尋ねる。
店主は苦笑しながら答えた。
「街外れに建つ古い屋敷です」
「築百五十年以上になる歴史ある屋敷で、十数年前から空き家になっています」
「修繕も必要ですし、幽霊が出るという噂までありまして……」
「ゆ、幽霊……?」
ソレイユが肩を震わせる。
ルークは苦笑した。
「だから誰も住まないんだね」
リュンヌは首を傾げる。
「私は平気だけど?」
エレナも興味深そうに微笑んだ。
「幽霊とは、一度会ってみたいものじゃ」
シャルロットは静かに微笑む。
「その屋敷を見せていただけますか」
店主に案内され、一行は街外れの小高い丘へ向かった。
そこには、大きな屋敷が静かに建っていた。
庭には雑草が生い茂り、外壁には蔦が絡み付き、屋根や窓も所々傷んでいる。
それでも、どこか懐かしく、温かな雰囲気を感じさせる屋敷だった。
シャルロットは屋敷を見上げ、小さく息を呑む。
「ここは……」
前世、大聖女ミュゲとして暮らした生家から歩いてすぐの場所。
幼い頃、何度も遊びに訪れた思い出の屋敷だった。
庭を駆け回り、縁側で笑い合った日々。
百五十年という長い年月を経ても、その面影は今もなお残っている。
「素敵なお屋敷ですね」
その一言に、店主は驚いたように目を丸くした。
「そう言っていただけるとは思いませんでした」
「修繕が必要な分、お値段は大金貨五枚です」
「頭金として大金貨一枚、残りは分割払いでも構いません」
シャルロットは静かに頷く。
「この屋敷を購入します」
薬草採集や調薬で貯めたお金なら頭金は支払える。
残りは、これから皆で力を合わせて返していけばいい。
契約を終えたその日から、一同は屋敷の掃除と修繕に取り掛かった。
「よーし! 頑張るぞー!」
リュンヌは庭の雑草を刈り、エレナは大きな岩や倒木を軽々と運ぶ。
ルークは壊れた窓や扉を修繕し、ソレイユは床を一生懸命磨いていた。
シャルロットも家具を直し、皆が暮らしやすいよう部屋を整えていく。
数日後。
荒れ果てていた屋敷は、見違えるほど美しく生まれ変わっていた。
磨かれた床。
陽光が差し込む大きな窓。
手入れされた庭。
そして、皆で囲める温かな食卓。
豪華ではない。
それでも、この屋敷には何ものにも代え難い温もりがあった。
「完成ですね」
シャルロットが穏やかに微笑む。
ソレイユは嬉しそうに部屋を見回した。
「僕、本当にここに住んでいいの?」
「もちろんです」
「ここは、みんなの帰る家ですから」
その言葉に、ソレイユは満面の笑みを浮かべた。
すると、リュンヌが少し言いづらそうに頭をかいた。
「あのさ……」
「私は宿に戻るね」
シャルロットは不思議そうに首を傾げる。
「リュンヌさんは、ずっと宿暮らしだったのですか?」
「うん」
「冒険者になってから、ずっとね」
「宿代も結構かかるし、なかなか貯金できなくてさ」
照れくさそうに笑うリュンヌ。
シャルロットは少し考え、優しく微笑んだ。
「でしたら、一緒に暮らしませんか?」
「え?」
リュンヌは目を丸くする。
「でも、迷惑じゃ……」
「迷惑ではありません」
「部屋も余っていますし、家族は多い方が楽しいですから」
ソレイユは元気よく手を挙げた。
「僕も賛成!」
ルークも笑顔で頷く。
「歓迎するよ」
エレナも穏やかに微笑んだ。
「賑やかな家の方が楽しそうじゃ」
リュンヌは目に涙を浮かべながら笑った。
「……ありがとう!」
「今日からよろしくね!」
こうして全員が、同じ屋根の下で暮らすことになった。
血の繋がりも、種族も違う。
それでも同じ家へ帰り、同じ食卓を囲む。
それこそが、シャルロットが前世では手に入れられなかった、本当の家族だった。
そして、この屋敷では――。
百五十年もの長い時を、一人静かに過ごし続けてきた少女がいた。
運命の再会は、もうすぐそこまで迫っていた。




