第25話 痩せ薬
リュンヌと依頼を終えた帰り道。
二人は夕暮れの森をゆっくりと歩いていた。
採集籠の中には、依頼で集めた薬草がぎっしりと詰まっている。
今日も依頼は無事に達成できそうだった。
その時だった。
リュンヌが何度も言いにくそうにシャルロットを見ていることに気付く。
「どうかしましたか?」
シャルロットが優しく尋ねると、リュンヌは頭をかきながら照れくさそうに笑った。
「実はさ……一つ相談があるんだけど」
「相談ですか?」
リュンヌは周囲を見回し、小さな声で言った。
「……私、痩せたいんだ」
そう言って、自分のお腹を軽くつまむ。
「最近ちょっと食べ過ぎちゃってさ」
「鎧も少しきつくなってきたし……」
恥ずかしそうに兎耳を伏せるリュンヌ。
その様子があまりにも愛らしく、シャルロットは思わず微笑んだ。
「それでしたら、お力になれるかもしれません」
「本当!?」
リュンヌは目を輝かせる。
シャルロットは少し考え込んだ。
前世で学んだ薬学や医学の知識が頭の中によみがえる。
無理な食事制限は身体を壊す。
大切なのは、体質を整え、健康な身体へ導くことだった。
「少しお時間をいただけますか?」
「もちろん!」
「完成したら真っ先に試す!」
数日後。
シャルロットは数種類の薬草を調合し、一つの薬を完成させた。
「こちらです」
透明な小瓶を受け取ったリュンヌは、不思議そうに首を傾げる。
「これで痩せるの?」
シャルロットは穏やかに頷いた。
「正確には、体質を整えるお薬です」
「代謝を改善し、適度な運動と食事を続けることで、健康的な身体へ導いてくれます」
「もちろん、お薬だけでは痩せませんよ」
「うっ……」
リュンヌは耳をぺたりと寝かせた。
「やっぱり運動は必要なんだね……」
「はい」
シャルロットはくすりと笑う。
「ですが、無理な食事制限をする必要はありません」
「健康な身体を取り戻すためのお薬です」
リュンヌは嬉しそうに薬瓶を抱きしめた。
「ありがとう!」
「つまり、痩せ薬ってことだね!」
シャルロットは苦笑しながら頷く。
「そう呼ばれてしまうかもしれませんね」
それからリュンヌは毎日欠かさず薬を飲み、適度な運動も続けた。
そして数週間後――。
「シャルロットー!」
冒険者ギルドへ飛び込んできたリュンヌは、満面の笑みを浮かべていた。
「見て見て!」
「鎧がぴったりになったよ!」
「身体もすっごく軽い!」
その姿を見た冒険者たちは思わず目を見開く。
「本当に痩せてる……」
「何をしたんだ?」
「その薬、どこで手に入れた?」
リュンヌは得意げに胸を張った。
「シャルロットが作ってくれたんだ!」
その一言で、ギルド中がざわめく。
「またあの新人か」
「薬草採集だけじゃなかったのか」
「薬まで作れるなんて……」
噂はあっという間に街中へ広がっていった。
薬の相談をしたい。
体調を診てもらいたい。
そんな声が、少しずつシャルロットのもとへ届き始める。
まだ本人は知らない。
一人の友人のために作った体質改善薬――通称『痩せ薬』が、やがて『シャルロット薬舗』誕生へと繋がる、大きな第一歩になることを。




