第24話 兎人族の少女
薬草採集の依頼を終えてから数日。
シャルロットはソレイユとルークに見送られ、いつものように冒険者ギルドへ向かっていた。
「行ってきます」
「いってらっしゃい、お姉ちゃん!」
「気を付けてね!」
二人へ笑顔で手を振り、シャルロットはギルドの扉を開く。
今日も館内は多くの冒険者たちで賑わっていた。
依頼掲示板へ向かおうとした、その時だった。
「もしかして、あなたがシャルロットさん?」
不意に声を掛けられる。
振り返ると、一人の少女が人懐っこい笑顔を浮かべて立っていた。
栗色の長い髪。
頭には大きな兎の耳がぴんと立ち、腰の後ろでは丸い尻尾が愛らしく揺れている。
年齢はシャルロットと同じくらいだろう。
しかし、その背中には大きな戦槌が背負われていた。
一目で前衛を務める冒険者だと分かる、堂々とした姿だった。
「はい。私がシャルロットですが……」
「やっぱり!」
少女はぱっと表情を輝かせる。
「薬草採集で高品質な薬草ばかり納品してる新人さんって聞いたから!」
どうやら先日の出来事は、すでにギルド中で評判になっているらしい。
シャルロットは少し照れくさそうに微笑んだ。
「そんな、大したことではありません」
「いやいや、大したことだよ!」
少女は勢いよく首を横に振る。
「薬草採集って見た目以上に難しいんだから!」
「私なんて青銅ランクの頃、何度も受付のお姉さんに『やり直し!』って言われたもん!」
そう言って、からからと明るく笑う。
その飾らない笑顔につられ、シャルロットも自然と笑みを浮かべた。
「私はリュンヌ!」
「鉄ランクの冒険者だよ!」
胸を張る姿には、自信と誇りが感じられた。
シャルロットも丁寧に頭を下げる。
「青銅ランクのシャルロット・メシャントです」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ!」
リュンヌは満面の笑みで右手を差し出す。
シャルロットも微笑みながら、その手を握り返した。
温かく、力強い握手だった。
その時、受付職員が依頼書を手に近付いてきた。
「リュンヌさん、ちょうど良かったです」
「この採集依頼ですが、一人では危険が伴います」
「もしよろしければ、青銅ランクのシャルロットさんと同行していただけませんか?」
リュンヌは依頼書へ目を通すと、すぐに頷いた。
「この辺り、最近は魔物の目撃情報も増えてるからね」
「採集依頼でも、一人より二人の方が安心だよ」
魔物とは、既存の生物が体内へ過剰な魔素を取り込み、「魔素袋」と呼ばれる器官を形成したことで、姿形や性質が大きく変異した生物の総称である。
ゴブリン、ガルム、ワイルドボア、デスベア――それらはすべて、もとは森や山に生息していた生物たちが魔素の影響で魔物化した姿だった。
魔物は魔素濃度の高い森や山岳地帯に多く生息している。
また、薬草も魔素の豊かな土地ほど良質なものが育つため、採集依頼は常に魔物との遭遇がつきまとう危険な仕事でもあった。
初心者向けの依頼とはいえ、油断すれば命を落とすことも珍しくない。
だからこそ冒険者たちは、互いに助け合いながら依頼へ挑んでいた。
「もちろん!」
「実は私も誘おうと思ってたんだ!」
そう言ってリュンヌはシャルロットへ向き直る。
「どうかな?」
「一緒に依頼を受けてみない?」
その瞳には打算も下心もない。
純粋に、一緒に冒険を楽しみたいという気持ちだけが宿っていた。
シャルロットは穏やかに微笑む。
「はい。ぜひお願いします」
「やったぁ!」
リュンヌは嬉しそうに飛び跳ねた。
長い兎耳もぴょこんと大きく跳ね、その愛らしい姿にシャルロットは思わず笑みをこぼす。
「それじゃあ、早速出発しよう!」
「よろしくね、シャルロット!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
二人は依頼書を受け取り、並んで冒険者ギルドを後にした。
明るく快活な兎人族の少女。
穏やかで優しい元大聖女。
性格も育ちも異なる二人だったが、不思議と足並みは自然に揃っていた。
この出会いが、生涯を共に歩む大切な仲間との始まりになることを、この時の二人はまだ知らなかった。




