第23話 姉を追って
シャルロットがメシャント家を追放されてから、およそ一か月。
一人の少年が、辺境都市フルールの門をくぐった。
肩には大きな荷物を背負い、長旅で服は土埃にまみれている。
それでも、その瞳だけは強い決意に満ちていた。
少年の名は、ルーク・メシャント。
シャルロットの実の弟である。
姉が家を追放された日から、ルークはずっと後悔していた。
何もできなかった。
姉を守ることも、一緒について行くことも。
だから決めたのだ。
今度こそ、自分の意思で姉を支えよう、と。
ルークは各地を巡り、人に尋ね続けた。
「すみません」
「シャルロット・メシャントという女性をご存じありませんか?」
「僕の姉なんです」
街の人々は首を傾げる者もいたが、一人の商人が思い出したように口を開く。
「ああ、あの優しいお嬢さんか」
「街外れの古い屋敷で暮らしているよ」
近くにいた女性も頷く。
「孤児の男の子と一緒に暮らしているわ」
「困っている人を放っておけない子なのよ」
ルークは胸を撫で下ろした。
(よかった……)
(姉さんは無事だったんだ)
教えられた場所へ急ぐ。
やがて街外れの屋敷へ辿り着くと、ルークは静かに扉を叩いた。
コンコン。
「はーい!」
元気な声とともに扉が開く。
現れたのは、見知らぬ金髪の少年だった。
ルークは思わず目を丸くする。
(この子が……)
(一緒に暮らしている孤児の男の子か)
一方、少年も不思議そうにルークを見つめていた。
「えっと……どちらさま?」
ルークは少し緊張しながら答える。
「僕はルーク・メシャントです」
「姉に会いに来ました」
「姉さんの名前は、シャルロットといいます」
その瞬間だった。
「ルーク?」
聞き慣れた優しい声が屋敷の奥から響く。
姿を現したシャルロットは、玄関に立つ少年を見た瞬間、息を呑んだ。
「……ルーク!」
シャルロットは駆け寄り、弟を強く抱きしめた。
「本当にルークなの?」
「どうしてここに……」
ルークも姉を抱きしめ返し、小さく笑う。
「迎えに来たわけじゃないよ」
「姉さんと一緒に暮らしたくて来たんだ」
シャルロットの瞳に涙が浮かぶ。
「無事でよかった……」
二人の再会を見守っていた少年は、にこりと笑った。
「お姉ちゃん、その人が弟さんなんだね」
シャルロットは涙を拭いながら頷く。
「ええ」
「私の大切な弟、ルークよ」
そしてルークへ微笑む。
「こちらはソレイユ」
「今、一緒に暮らしている家族なの」
ソレイユは元気よく頭を下げた。
「はじめまして!」
「僕はソレイユ!」
ルークも笑顔で頭を下げる。
「よろしく」
「姉さんがお世話になっています」
ソレイユは慌てて首を振った。
「違うよ!」
「僕がお姉ちゃんに助けてもらったんだ!」
その無邪気な笑顔を見て、ルークの表情も自然と和らぐ。
三人は屋敷へ入り、食卓を囲んだ。
ルークは家を飛び出したこと。
姉を探して旅を続けてきたこと。
そして、もう実家へ戻るつもりはないことを静かに話した。
「僕は姉さんと一緒に生きていきたい」
「ここで暮らさせてほしい」
シャルロットは優しく微笑み、迷うことなく頷く。
「もちろんよ」
「ここは、あなたの家でもあるんだから」
その言葉に、ルークはようやく安堵の笑みを浮かべた。
こうして離れ離れになっていた姉弟は再び同じ屋根の下で暮らすこととなる。
シャルロットとソレイユの二人暮らしは、この日からルークを加えた三人の新しい暮らしへと変わっていくのだった。




