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第22話 帰る家

 霊園を後にした二人は、夕暮れの街をゆっくりと歩いていた。


 茜色に染まった空の下、石畳には二人の影が長く伸びている。


 しばらく無言で歩いていたシャルロットは、穏やかな声で口を開いた。


「お名前を聞いてもよろしいですか?」


 少年は少しだけ照れくさそうに笑う。


「ソレイユです」


「ソレイユ・ブラン」


「ソレイユさん、ですか」


 シャルロットは優しく微笑んだ。


「とても素敵なお名前ですね」


 そう言われたソレイユは、少しだけ嬉しそうにはにかむ。


 その笑顔を見て、シャルロットも自然と笑みを浮かべた。


「今は、どなたと暮らしているのですか?」


 その問い掛けに、ソレイユの足が止まる。


 少し俯き、小さく首を横へ振った。


「……一人です」


「お母さんが亡くなってから、ずっと」


 静かな声だった。


「昼間は仕事をして、お金を稼いで……」


「夜は、お母さんと住んでた家に帰ります」


 幼い少年が、たった一人で暮らしている。


 その現実に、シャルロットは胸が締め付けられた。


 まだ甘えたい年頃だ。


 誰かに「おかえり」と迎えてもらい、温かい食事を囲み、安心して眠る。


 本来なら、それが当たり前であるはずなのに。


 ソレイユには、その当たり前がなかった。


 シャルロットはゆっくりと立ち止まり、少年の前へしゃがみ込む。


「寂しくありませんか?」


 その一言に、ソレイユは困ったように笑った。


「……寂しいです」


「でも、お母さんが心配するから」


「泣かないって決めたんです」


 その笑顔は、とても痛々しかった。


 無理をして笑っていることが、一目で分かる。


 シャルロットはそっと手を伸ばし、ソレイユの頭を優しく撫でた。


 少年は驚いたように目を見開く。


 その温もりは、母を亡くして以来、忘れかけていたものだった。


 シャルロットは静かに微笑む。


「ソレイユさん」


「はい?」


「もし……」


 一度だけ言葉を止める。


 けれど、迷いはなかった。


「もし良ければ、私と一緒に暮らしませんか?」


 ソレイユは目を丸くした。


「えっ……?」


「私も、この街へ来たばかりなんです」


「知り合いもいませんし、一人で暮らしています」


「だから、一人より二人の方が、きっと毎日が楽しいと思うんです」


 ソレイユは何も言えなかった。


 ただ、大きな瞳から涙が溢れていく。


「僕……」


 何度も涙を拭う。


 けれど、涙は止まらない。


「本当に……いいの?」


 震える声で尋ねる。


 シャルロットは優しく頷いた。


「もちろんです」


「これからは、一人ではありません」


「一緒に帰りましょう」


 その言葉を聞いた瞬間、ソレイユは声を上げて泣いた。


 母を亡くしてから、ずっと堪えてきた涙だった。


 シャルロットは何も言わず、ただ優しく抱きしめる。


 泣き止むまで、静かに寄り添い続けた。


 やがてソレイユは涙を拭い、少し照れくさそうに笑う。


「……よろしくお願いします」


 シャルロットも嬉しそうに微笑み、小さな手をそっと握った。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 夕日に照らされながら、二人は並んで歩き出す。


 家族を失った少女と、家族を失った少年。


 その日、二人は初めて”帰る家”を見つけた。


 それは血の繋がりではなく、互いを思いやる心で結ばれた、新しい家族の始まりだった。

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