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第20話 母の墓

 薬草採集の依頼を終えたシャルロットは、報酬を受け取り、夕暮れのフルールの街を歩いていた。


 西の空は茜色に染まり、一日の終わりを告げる鐘の音が街中へ響いている。


 市場の賑わいも少しずつ落ち着き始め、人々は家路を急いでいた。


「少し遠回りして帰りましょうか」


 そう呟きながら歩いていると、街外れへ続く小道が目に入る。


 その先には、花々に囲まれた静かな霊園があった。


 シャルロットは自然と足を向ける。


 前世でも、そして今世でも、不思議と墓地は心を落ち着かせてくれる場所だった。


 ゆっくりと墓石の間を歩いていると、小さな泣き声が聞こえてきた。


「……お母さん」


 幼い少年の声だった。


 シャルロットは足を止め、静かに声のする方を見る。


 一つの墓石の前で、小柄な少年が膝をついていた。


 まだ十歳にも満たないだろう。


 着ている服は何度も繕われ、靴も擦り切れている。


 その小さな手には、野原で摘んだのであろう花が一輪だけ握られていた。


 少年はその花を墓前へ供えると、静かに手を合わせる。


「ごめんね、お母さん」


「今日は、お花しか持ってこられなかった」


 震える声だった。


「もっと働いたら、お供えも買えるようになるから」


「だから、もう少し待っててね」


 そう言って、少年は袖で涙を拭う。


 そして墓石へ積もった落ち葉を払い、布で丁寧に磨き始めた。


 小さな身体で、一生懸命に。


 誰に頼まれたわけでもない。


 ただ、大好きだった母のために。


 シャルロットは静かに墓石へ目を向ける。


 刻まれた名前。


 そして、その下に記された文字。


 ――流行病により永眠。


 その一文だけで、すべてを理解した。


 流行病。


 前世でも何度となく向き合ってきた病だった。


 救えた命もあれば、救えなかった命もある。


 家族を失い、泣き崩れる人々の姿を、何度も見てきた。


 その記憶が、静かによみがえる。


 やがて少年は墓石を磨き終えると、小さく笑った。


「また来るね、お母さん」


 その笑顔は、とても幼く、そしてどこまでも寂しかった。


 立ち上がった少年は振り返り、そこで初めてシャルロットの存在に気付く。


「あっ……」


 驚いたように目を見開き、一歩後ろへ下がる。


 シャルロットは優しく微笑み、小さく頭を下げた。


「ごめんなさい。


 驚かせるつもりはなかったのです」


 少年は少し恥ずかしそうに俯く。


「ぼ、僕……」


 言葉が続かない。


 その姿を見つめながら、シャルロットは胸の奥に小さな痛みを覚えていた。


(この子も……一人なんですね)


 家族を失った悲しみ。


 帰る家を失った寂しさ。


 それは、ほんの少し前まで自分自身が抱えていた想いでもあった。


 だからこそ、放っておくことができなかった。


 この少年の笑顔を、もう一度取り戻したい。


 その願いが、シャルロットの胸に静かに芽生える。


 それが、一人の少年との運命的な出会いになることを、この時の二人はまだ知らなかった。

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