第17話 第二の人生
フルールの街を見下ろす小高い丘。
シャルロットは、柔らかな風を受けながら静かに街並みを眺めていた。
石畳の道を行き交う人々。
市場から聞こえてくる活気ある呼び声。
子どもたちの笑い声。
焼きたてのパンの香ばしい匂い。
そのすべてが、穏やかな日常を物語っていた。
百五十年前。
ミュゲ・ジプソフィルが命を懸けて守った世界。
その平和は今もなお、この街で生き続けている。
「本当に……守れたんですね」
シャルロットは小さく微笑んだ。
その笑顔には、安堵と喜びが滲んでいる。
前世では、多くの人々の期待を背負って生きた。
幼くして聖女となり、世界を救うために旅へ出た。
仲間たちと笑い、泣き、戦い、最後まで歩み続けた。
その人生に後悔はない。
けれど、その役目はもう終わった。
今ここにいるのは、大聖女ミュゲではない。
シャルロット・メシャントという、一人の少女だ。
もう誰かの期待に応えるためではない。
名誉のためでも、使命のためでもない。
自分自身の人生を、自分らしく歩んでいく。
困っている人がいれば手を差し伸べたい。
薬を作り、人々の役に立ちたい。
美味しいものを食べて、笑って、穏やかな毎日を過ごしたい。
そんな、ささやかな幸せを大切にして生きていこう。
「まずは、お仕事を探さないといけませんね」
自然と笑みがこぼれる。
前世で培った薬学や医学の知識は、この時代でも必ず誰かの役に立つ。
冒険者として依頼を受けるのもいい。
薬を作り、多くの人を笑顔にするのもいい。
きっと、この街なら新しい人生を始められる。
シャルロットは大きく息を吸い込む。
花の香りを乗せた風が、優しく頬を撫でた。
青く澄み渡る空を見上げ、小さく頷く。
「行きましょう」
少女は一歩を踏み出した。
その足取りは軽く、瞳には未来への希望が宿っている。
この街で、多くの人と出会うだろう。
かけがえのない仲間と巡り会うだろう。
そして、血の繋がりを超えた、本当の家族と出会うことになる。
それは、まだ少し先の物語。
こうして、すべてを失った少女は、新たな人生への第一歩を踏み出した。
元大聖女シャルロットのスローライフは、ここから始まるのだった。




