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第15話 フルールの街

 長い旅の末、一つの街が見えてきた。


 石造りの城壁。


 門の両脇には色鮮やかな花々が咲き誇り、街道には旅人や商人たちが行き交っている。


 穏やかな風が花の香りを運び、どこからか子どもたちの笑い声が聞こえてきた。


 門の上には、一輪の花を象った街の紋章。


 その姿を見た瞬間、シャルロットの胸は大きく高鳴った。


「フルール……」


 自然と、その名が口をついて出る。


 辺境都市フルール。


 現在のシャルロットにとっては初めて訪れる街。


 しかし、前世の記憶は知っていた。


 ここは、大聖女ミュゲ・ジプソフィルが生まれ育った故郷。


 すべての始まりの場所だった。


 門をくぐる。


 石畳の道。


 軒先を彩る花々。


 市場から漂う焼きたてのパンの香り。


 元気よく客を呼び込む商人たちの声。


 その一つひとつが、懐かしかった。


 百五十年という長い歳月が流れた。


 建物は新しくなり、人々も入れ替わっている。


 それでも、この街に流れる穏やかな空気だけは、あの日と何も変わっていなかった。


 シャルロットはゆっくりと街並みを見渡す。


 花屋の前では、小さな少女が花束を選んでいる。


 広場では子どもたちが元気よく走り回り、噴水のそばでは老夫婦が楽しそうに語り合っていた。


 人々の笑顔。


 平和な日常。


 それは、かつてミュゲが仲間たちと命を懸けて守り抜いた世界そのものだった。


 気がつくと、一筋の涙が頬を伝っていた。


「帰ってきたんですね……」


 その言葉は、誰へ向けたものでもない。


 生まれ育った故郷へ。


 前世の自分へ。


 そして、この街で暮らす人々へ向けた、静かな挨拶だった。


 シャルロットは涙をそっと拭い、小さく微笑む。


 ここから始めよう。


 大聖女ミュゲとしてではない。


 シャルロット・メシャントとして。


 誰かの期待に応えるためではなく、自分らしく生きるための新しい人生を。


 少女は希望を胸に、ゆっくりとフルールの街へ足を踏み入れた。


 この街で待ち受ける数々の出会いが、やがてシャルロットの運命を大きく変えていくことを、この時の彼女はまだ知らなかった。

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