第12話 孤独な旅路
メシャント伯爵家を追われてから、数日が過ぎた。
シャルロットは、一人、街道を歩き続けていた。
行き先は決まっていない。
目的地もない。
ただ、このまま立ち止まれば心まで折れてしまいそうで、足だけは前へと動かし続けていた。
空は灰色の雲に覆われている。
やがて小さな雨粒が降り始め、それは次第に激しさを増していった。
冷たい雨が髪を濡らし、衣服を重くする。
靴の中まで雨水が染み込み、一歩踏み出すたびに足元から冷たさが伝わってきた。
それでもシャルロットは歩く。
歩くしかなかった。
「……寒いですね」
ぽつりと呟いた声は、雨音にかき消される。
街道には人影も少ない。
すれ違う旅人は、濡れた少女を一瞥するだけで足早に通り過ぎていく。
誰も声を掛けてはくれない。
誰も手を差し伸べてはくれない。
その現実が、胸へ静かに突き刺さる。
持ってきた食料も、残りわずかになっていた。
乾いたパンを小さくちぎり、ゆっくりと口へ運ぶ。
味はほとんどしない。
路銀も決して多くはなかった。
このまま旅を続ければ、そう遠くないうちに底を尽くだろう。
「これから……どうすればいいのでしょう」
答えてくれる人はいない。
家族はいない。
婚約者もいない。
帰る家もない。
あるのは、自分一人だけだった。
日が傾き始める。
雨は止む気配を見せず、森の中へ冷たい風が吹き抜けていく。
その夜、シャルロットは大きな木の根元で身体を丸めた。
冷え切った身体を抱き締めても、震えは止まらない。
ふと、家族との思い出が脳裏をよぎる。
母と一緒に飲んだ温かな紅茶。
父に褒められた幼い日の記憶。
兄姉と笑い合った食卓。
ルークと庭を駆け回った日々。
どれも、もう戻らない。
「お父様……」
「お母様……」
無意識に零れた言葉へ、自分自身ではっとする。
迎えに来てくれる人は、もういない。
そう思った瞬間、胸の奥に押し込めていた感情が溢れ出した。
「どうして……」
涙が止まらなかった。
「私は……そんなに駄目だったのでしょうか」
「魔法が使えないだけで……」
「私は、誰にも必要とされないのでしょうか……」
嗚咽が雨音へ溶けていく。
誰にも届かない、小さな叫びだった。
どれほど泣いても、現実は変わらない。
夜は明け、また朝が来る。
生きるためには歩かなければならない。
理由も、希望も見つからないまま。
シャルロットは涙を拭うと、ゆっくりと立ち上がった。
震える足で、一歩。
また一歩。
少女は絶望の中を歩き続ける。
その旅路の果てで、自らの運命を大きく変える奇跡が待っていることを、この時のシャルロットはまだ知らなかった。




