表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
104/109

第102話 旧魔王城

 エレナの背に乗り、半日ほど。


 一行はついに旧魔王領へ到達していた。


 眼下に広がる景色は、王国や帝国の豊かな大地とはまるで違う。


 荒れ果てた大地。


 黒ずんだ岩山。


 生命の気配が薄い荒野。


 百五十年前の戦争の傷跡が、今なお色濃く残されていた。


 やがてエレナは高度を下げ始める。


「見えてきたぞ」


 その言葉に、全員が前方を見据えた。


 地平線の彼方。


 巨大な廃墟が姿を現す。


 旧魔王城。


 かつて魔王ニコラスが君臨した居城だった。


 城壁は崩れ落ち。


 塔は半ばから折れ。


 それでもなお、圧倒的な威圧感を放っている。


 エレナは城の近くへ降り立った。


 紅い光に包まれ、再び少女の姿へ戻る。


 一行は静かに周囲を見回した。


 その瞬間だった。


 ソフィアの表情が険しくなる。


「これは……」


「魔素濃度が異常です」


 サンセリテも頷いた。


「ええ」


「百五十年前から危険地帯ではありました」


「ですが、ここまでではありませんでした」


 空気そのものが重い。


 呼吸をするだけで濃密な魔素が身体へ流れ込んでくる。


 普通の人間なら長時間滞在するだけで体調を崩しかねない濃度だった。


 シャルロットは周囲を見回す。


 そして静かに手を掲げた。


「皆さん、少し下がってください」


 三人が不思議そうに見る中。


 シャルロットの身体から柔らかな光が溢れ出す。


「聖光結界」


 次の瞬間。


 眩い光が四人を包み込んだ。


 透明な光の膜が周囲へ広がり、濃密な魔素を押し返していく。


 重苦しかった空気が一瞬で浄化された。


 ソフィアは目を見開く。


「そんな……」


「これほどの規模の結界を……」


 サンセリテも驚きを隠せなかった。


「お見事です」


「まさか、ここまでとは……」


 エレナも感心したように頷く。


「ほう」


「いつの間にそんな芸当ができるようになったのじゃ」


 シャルロットは少し困ったように笑った。


「私もよく分かりません」


「皆さんを守らなければと思ったら、自然と……」


 その言葉に、サンセリテは静かに微笑む。


「やはり、あなたは――」


 だが、その先は言わなかった。


 一行は旧魔王城の奥へ進む。


 静まり返った城内。


 朽ちた玉座。


 崩れた回廊。


 かつて魔族たちが行き交っていたとは思えないほど荒廃していた。


 そして――。


 最奥部。


 封印の間。


 そこには巨大な祭壇があった。


 百五十年前。


 大聖女ミュゲが魔王因子を封印した場所。


 祭壇そのものは無数の亀裂に覆われている。


 そして祭壇の中央。


 そこにあったのは、意外なほど小さな存在だった。


 手のひらに収まるほどの黒い結晶。


 それが――魔王因子。


 だが、その小ささとは裏腹に、そこから放たれる禍々しい魔素は圧倒的だった。


 黒い靄のような魔力が絶えず漏れ出し、空間そのものを歪ませている。


 まるで世界の理から外れた異物。


 存在しているだけで周囲へ災厄を撒き散らす呪いそのものだった。


 ドクン。


 ドクン。


 ドクン。


 小さな結晶は、生き物の心臓のように脈動を繰り返している。


 ソフィアは思わず息を呑んだ。


「これが……」


「魔王因子……」


 エレナも表情を険しくする。


「信じられぬな」


「これほど小さいものが、世界を滅亡寸前まで追い込んだ元凶とは……」


 サンセリテは静かに頷いた。


「だからこそ恐ろしいのです」


「大きさなど関係ありません」


「これこそが、千年間世界を脅かし続けてきた災厄の根源です」


 その瞬間。


 シャルロットの脳裏に、百五十年前の記憶が蘇った。


 燃え盛る旧魔王城。


 傷付き倒れていく仲間たち。


 最後の力を振り絞る自分。


 そして。


 光に包まれながら魔王因子を封印した、あの日の光景。


 シャルロットは静かに目を閉じた。


「久しぶりですね」


 その声には懐かしさも、恐れもなかった。


 あるのは決意だけ。


 百五十年前。


 終わらせることのできなかった戦い。


 その決着が、ついに目の前まで迫っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ