第99話 未来へ
応接室。
シャルロットは、大切そうに革張りの手帳を胸へ抱いていた。
百年前。
未来の誰かを信じ、自らが託した希望。
そして、その希望を百年間守り続けてくれた旧友。
シャルロットは静かにサンセリテを見つめた。
「ありがとうございました」
「この手帳を、ずっと守ってくださって」
サンセリテは穏やかに微笑む。
「約束でしたから」
その一言だけで十分だった。
百年という歳月。
その長い時間を支えてきたのは、互いへの信頼だった。
シャルロットは手帳を胸へ抱き寄せる。
そして、静かに口を開いた。
「私は、もう大聖女ミュゲではありません」
「薬師シャルロット・メシャントです」
一度言葉を区切る。
その瞳には揺るぎない決意が宿っていた。
「ですが」
「魔王因子との因縁だけは、ここで必ず断ち切ります」
応接室に静かな決意が響く。
百年前。
終わらせることのできなかった使命。
それを今、この時代で終わらせる。
エレナは静かに頷いた。
「うむ」
「お主なら成し遂げられるじゃろう」
「我は、お主を信じておる」
短い言葉だった。
だが、その一言には揺るぎない信頼が込められていた。
シャルロットも優しく微笑む。
「ありがとうございます」
ソフィアも静かに一歩前へ出た。
「シャルロットさん」
「私は聖女として、まだまだ未熟です」
「ですが、あなたが未来へ繋いでくださった希望は、私も必ず受け継ぎます」
「微力ではありますが、どうか私にもお力添えをさせてください」
シャルロットは穏やかに頷く。
「ありがとうございます」
「一緒に未来を守りましょう」
サンセリテは満足そうに三人を見渡した。
「その言葉を聞けて安心しました」
そして、ゆっくりと微笑む。
「実は、一つだけ希望があります」
シャルロットは顔を上げた。
「希望……ですか」
「はい」
「百年間考え続け、ようやく辿り着いた方法があります」
「ですが」
サンセリテは静かにシャルロットを見つめる。
「かつてミュゲだったあなたが戻って来てくださった今だからこそ、初めて試すことのできる方法です」
シャルロットは目を見開く。
「それは……」
サンセリテは穏やかに首を横へ振った。
「詳しいことは、今はまだ申し上げられません」
「その答えは、魔王因子が眠る祭壇でお話しいたします」
百年間。
誰よりも魔王因子と向き合い続けてきた人物の言葉。
だからこそ、シャルロットは静かに頷いた。
「分かりました」
「信じています」
サンセリテも静かに微笑み返す。
翌朝。
シャルロットとエレナは、ルミエール大聖堂を後にした。
見送りに来たサンセリテとソフィアへ深く一礼すると、エレナは紅竜の姿へと変身する。
「さあ、帰るのじゃ」
「皆が待っておるぞ」
シャルロットは大切な手帳を胸へ抱え、エレナの背へ乗った。
ソフィアは大空へ舞い上がる紅竜を見上げ、静かに祈る。
「どうか、ご無事で……」
「そして、百五十年間続いた使命が果たされますように」
力強く翼が羽ばたく。
紅竜は青空へ舞い上がった。
目指すは、仲間たちが待つフルール。
百年前に未来へ託された希望は、再び本当の持ち主のもとへ帰ってきた。
そしてシャルロットは、新たな決意を胸に、未来へ向かって飛び立つのだった。




