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05_鴉羽さんは教え合う

「そういやさぁ、古内裏って何が趣味とかあるの?」


 昼休み。校庭のベンチで一緒にお昼を食べていた鴉羽さんが、おもむろにそんなことを言い出した。


「趣味?」

「うん。アタシらこれから彼氏彼女でやってくからにはさ、やっぱお互いのことよく知っといた方がいいかな~って」

「確かに……そうかも」

「フツーはよく知り合ってから付き合うから順序が逆だけどね」


 そう言うと鴉羽さんは「例えばアタシは色んな家のからあげを食べ比べるのが趣味だよん」と言いながら、僕の弁当箱からひょいとからあげをつまんだ。学校用ににんにくを避け、しょうがと漬けダレを染み込ませた自信作が鴉羽さんの口の中へと消えていく。


「うまっ……! で、何か趣味無いの?」

「そうだなぁ……急に言われるとパッとは思いつかないかも……」

「言えない趣味ってこと? 休日のエロ動画鑑賞とか♡」

「普通に漫画やゲームですっ!」


 とんでもない変態ハッスル野郎にされそうなったので、素直に答える。


 漫画もゲームも同年代の男子ならみんなやってることだけど、僕は普通の人より多くの漫画を読んでると思うし、色んなゲームをやり込んでいる。所謂オタクと言ってもいい。


 別にオタ趣味がバレるのは嫌じゃない。

 でも鴉羽さんはきっと漫画やゲームにそれほど興味はないだろうし、もし気を遣って話を合わせてくれようとしたら……そういうのって、オタク的には結構居たたまれないのだ。


「そうなんだ? 漫画やゲームならアタシも持ってるよ~」


 と鴉羽さんが口にしたのは、案の定国民的人気漫画と、同じく国民的RPGのタイトルだった。

 これは「あのシーンはここに伏線が~」とか「このナンバーの開発裏話が~」みたいな話はしない方がよさそうだ。僕は無難に「どっちも大人気だからね」と返した。


「僕のことより、鴉羽さんはどうなの? 何か趣味とか好きなものとか……からあげ強奪以外でってことだけど」

「ん~? アタシは誰かと遊ぶのが趣味みたいなもんだからねぇ……友達とカフェやカラオケで駄弁ったり、服見に行ったり、たまに遠出してどっか行ったり」

「さすが、鴉羽さんは友達多そうだもんね」

「ひとりの時はロック聴いてることが多いかな? たまに気に入ったバンドのライブ行ったりもするよ。自分でギター始めようと思ったこともあったんだけどさ、中学の時は運動部入ってて時間なかったし、高校に入ったら入ったでネイルしてたらギター弾けないから結局やらずじまいなんだよね……って古内裏どしたん?」

「いや……オーラで目が潰れるかと思って……」


 友人、ロック、ギター……どれも陽キャ全開の輝かしい趣味に、僕は思わず両手で目を塞いでいた。

 住む世界が違い過ぎて陰キャの僕には眩しすぎる。


「あとはそうだなぁ……あ、あれやったことあるよ。コスプレ!」

「えっ、それは意外かも」

「友達にそういうの好きな子がいるから、去年のハロウィンに一回だけね。何かのゲームのキャラって言ってたけど、見てみる?」


 そう言うと鴉羽さんはスマホを取り出し、短く操作してからこちらに渡した。


「どれどれ――ブッ……!」


 渡された画面を見た僕は、驚きと衝撃で思わずスマホを取り落としそうになる。


 画面には鴉羽さんを含めた三人の女子が、ゾンビ風のコスプレでポーズをキメているところが映っていた。

 背景は屋内のセットで、たぶん貸し衣装付きのスタジオか何かで撮られたものだろう。それはいいんだけど、問題はその衣装だ。


 鴉羽さんが着てるのは中国風ゾンビ――所謂キョンシーなんだけど、チャイナ服の要素が盛り込まれたその衣装は大胆に胸元が開き、かなり際どいスリットが入っている。


 去年のハロウィンってことは、この時中学生だよね……?

 そう思うと何だかものすごく背徳的な気がしてきた。


 ちなみに一緒にいるのは鴉羽さんと仲がいいクラスメイトだ。お嬢様風ワンピースゾンビが鷺ノ宮さんで、小柄なゴスロリゾンビが隼瀬さん。写真の鷺ノ宮さんは恥ずかしそうにしているし、「そういうの好きな子」は隼瀬さんの方だな。


「ん~? どしたん古内裏? そんなじ~~~っと見とれちゃって、気になるところでもあった?」


 コスプレ写真に気を取られていると、鴉羽さんに横から声をかけられはっと顔をあげる。

 見れば隣に座った鴉羽さんが、ニヤニヤと意味あり気に笑いながら僕の表情を覗き込んでいた。


 これはまずい、つい遠慮なく見すぎたか。

 短いながらも鴉羽さんと過ごしてきた僕の本能がアラートを発する。


「あ、いや別に見とれてたわけじゃ……メイクも背景もクオリティが高いなぁって思ってただけだよ」


 咄嗟に拙い言い訳を口にしたけど、鴉羽さんは僕の心の内を見透かすように「ふーん?」とわざとらしく首を傾げてみせた。


「そういうの分かるんだ? このスタジオまゆぴが見つけてくれたんだけど、すごくいいトコだったよ。あ、まゆぴってのはこっちのちっこい子ね」

「あ、やっぱり隼瀬さんの発案なんだ……」

「アタシは詳しくないけどカメラとかの機材もすごい本格的だったなぁ」

「確かに、そう言われると画質だけじゃなく写り方もすごくいいかも……」

「あと、スタッフさんも女の人だけで安心だったしね。そのせいでちょっと開放的な気分になっちゃったり?」 

「へぇ、だからこんな際どい衣装にしたんだ――あ」


 言って、しまったと後悔してももう遅い。

 鬼の首を取ったかのごとくニヤリと笑う鴉羽さんを見ていられず、僕は両手で顔を覆った。


「ふ~~~ん、古内裏はそういう風に思ってたんだ?」

「…………」

「アタシのきゃわど~いコスに見とれちゃってたんだ?」

「…………」

「こういう時は変に誤魔化すより、素直に感想言われた方が嬉しいもんだよ~? 女子としてはね」

「……善処します」


 僕の脇腹をつんつん突きながら、芝居がかった口調でちくちく的確に刺してくる鴉羽さん。

 僕は素直に敗北を認め、スマホを鴉羽さんに返した。

(スマホを受け取った鴉羽さんが、冗談交じりに「そんなに気に入ったならデータあげよっか?」と言ってきたけど、血の涙を流す思いで遠慮しておいた。後悔なんてしてない)


 醜態を誤魔化すように咳ばらいをひとつ。


「でも、改めて考えると鴉羽さんと僕って、あんまり趣味がカブってないね。そういうコスプレも『ハロウィンの』って言われると、なんか陽キャっぽいイベントに思えてくるし」

「ん~? まぁそうかもね。アタシも漫画やゲームにそこまで詳しいワケじゃないしな~……」


 好きなものも普段の趣味もまるで違う僕と鴉羽さん。

 あれ、これって今後付き合っていく上で結構問題なのでは……? その内「全然趣味合わないから一緒にいてもつまんない」とか言われて捨てられちゃったりして――!?


 そんなことを考えていると、鴉羽さんが唐突に「そだ!」と両手を合わせた。


「せっかくだから古内裏のおススメ教えてよ」

「え」


 突然の提案にちょっとだけ思考が止まる。


「でも鴉羽さん、漫画やゲームに興味ないんじゃ……?」

「そんなこと言ってないっしょ! これまであんま触れてこなかったってだけじゃん」


 鴉羽さんは「人の話聞いてなかったの?」とぷりぷり怒っている。

 確かに興味ないとはひと言も言っていなかったかもしれない。


「大体、趣味なんてもんは興味ないトコから他人の影響で始めるもんでしょ。アタシがロック好きなのもパ……お父さんの影響だし、上の学年の友達には彼氏の影響でバイク乗り始めた子もいるよ」


 ピンと立てた人差し指をくるくる回すようにしながら語る鴉羽さん。

 確かに言われてみればその通りだ。僕が漫画やゲームをやり始めたのも、父親が好きで一緒に読んだり遊んだりしてたのがきっかけなわけだし。


「そういう意味じゃ、アタシら相性抜群じゃん? お互いが知らないこといっぱい知ってるワケだしね」


 言いながら、鴉羽さんは「いえ~い」とノリ良く両掌をこちらに向けてきた。

 僕も釣られて手を差し出し、ハイタッチを交わす。


 なるほど、そういう考え方もあるのか。

 趣味が合わないってマイナス要素だと思ってたけど、鴉羽さんの言う通り、それは見方を変えれば自分の知らない世界を教えてくれる相手とも言えるわけだ。


 いつでも前向きな鴉羽さんらしい受け取り方に僕は感心して、同時にほんの少しの勇気をもらった。


「鴉羽さん、それじゃあさ……僕もお勧めのバンドとか教えてもらっていい?」


 そう伝えると鴉羽さんは満面の笑顔で「もちろん」と答えてくれたのだった。




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