EX04E_鴉羽さんは納得する
「――てなワケで、その友達二人から同じ相手を好きだって相談されたんだよね。もうどうしたらいいか分かんなくてさ……」
アタシはアタシを悩ませる問題の一部始終を隼瀬さんに話して聞かせた。
ただンゴちゃんとドルちゃん、あと臼木先輩の名前はぼかして伝えた。アタシと仲いい友達は多いし、これで彼女たちのことだとは分からないはずだ。
「二人とも仲いいのに、このままじゃ同じ人を取り合って険悪になっちゃうよ。どうすりゃいいと思う?」
積み上げられたマットの上に座った隼瀬さんに問いかける。
隼瀬さんはアタシの話を聞くと、さらりと得意気に口を開いた。
「そんなの簡単じゃない。その二人を仲違いさせたくないなら鴉羽雛乃がその相手と付き合ったらいいのよ」
「それじゃアタシがその二人に恨まれちゃうじゃん」
同級生に嫌われるのを防ぐため、今までアタシがどんだけ苦労してきたと思ってるんだ。
いや、今まさに絶賛苦労してる最中なんだけどさ……。
「でも共通の敵ができることでその二人はもっと仲良くなるわ。友情のためにあえて憎まれ役を買って出る。そういうのも素敵じゃない?」
「ヤだよ! 自分が嫌われたら意味ないもん。嫌いとかダメなヤツみたいな悪い感情はあっという間に伝わってくんだよ?」
このツインテ、他人事だと思って面白がってるなコノヤロウ。
それを裏付けるように、隼瀬さんはにやにや笑いながら言葉を続ける。
「ま、それは冗談としても……何事もなく収めたいなら上手く納得させてその恋を諦めさせるしかないわね。もちろん両方とも、よ。可能性はあるの?」
「真剣に悩んでるのに冗談で返さないで欲しいんだけど……う~~~ん、どうかなぁ」
隼瀬さんが言うように、ンゴちゃんドルちゃんが臼木先輩を諦めてくれたらそれでまるっと解決だ。
でもンゴちゃんは思いこんだら一直線タイプだし、あのプライドの高いドルちゃんがアタシに相談してきたという時点でかなりの本気度が窺える……ぶっちゃけ難しいだろうなぁ。
(ちなみにどっちか片方だけ説得して降りさせるのはダメだ。そんなことしたらアタシが片一方にだけ肩入れしたことになっちゃうから、降りた方はいい気がしないに決まってる)
難しい顔で頭を捻るアタシの様子を答えと見たのか、隼瀬さんは大きく溜め息を吐く。
「それが難しいなら、余計なことしないで放っておくことね。事情が事情だし、どっちにも協力しないでいれば少なくともあんたが恨まれたりはしないと思うわよ」
「それじゃ二人が仲違いしちゃうじゃん……」
あっちを立てればこっちが立たず、話し合いは完全に堂々巡りだ。
「結局、鴉羽雛乃はどうしたいのよ?」
「アタシ?」
どうなんだろう? 自分のことを一番に考えれば、隼瀬さんが言う通り何もしないでいるのがベストだ。
下手なことして事態が悪化すればアタシがンゴちゃんたちに嫌われかねないんだから、黙って嵐が過ぎ去るのを待てばいい。
その結果ンゴちゃんとドルちゃんの関係が切れても、アタシだけは無事でいられる。でもそれでいいんだろうか?
アタシが臼木先輩と付き合うとかは極端すぎるにしても、二人のためにできることがあるなら行動するべきなんじゃないの? たとえその結果、アタシがハブになったとしても?
う~~~ん、ダメだ。何が正解かなんて分かりっこないよ。
「どうしたいかって言われたら、ンゴちゃ……じゃなくてその二人もアタシも、三人仲良くこれまで通りやっていきたいだけなんだけどなぁ。同じ相手を好きになったからって変にギクシャクしないでさ、お互い全力で相手を落とす! で、決着ついたら後腐れなく元通り、みたいな?」
でもそれはさすがに欲張り過ぎか。
隼瀬さんも呆れてそう言うかと思ったけど、返ってきた言葉は予想外のものだった。
「じゃ、そう言えばいいじゃない」
「言えばいいって、ンゴ……二人に?」
「ええ」
隼瀬さんは事も無げに言い切った。
「ええー……それはどうだろう? どんだけ頭お花畑なんだって思われないかな」
「そう? 素直に気持ちを伝えたら恋より友情を取ってくれるかもしれないわよ」
「んな単純な……」
と思ったけど、確かにすべてをありのまま二人に伝えるというのは盲点だったかもしれない。
問題は、果たしてそんなワガママが通るのかってことだ。下手したら二人の友情どころか三人まとめて空中分解コース。クラスでも目立つアタシらがそうなれば、教室全体の雰囲気も悪くなること間違いなし。こわっ、最悪じゃん。
そんなアタシの煮え切らない態度に、隼瀬さんは意外そうな目を向ける。
「何よ、ずいぶん弱気ね。小学校からの友達なんでしょ?」
「その友達を無くすかもしれないんだから、弱気にもなるよ。隼瀬さんはないの? 誰かに嫌われるかもって不安になること」
「ないわよ。可愛いまゆを嫌いな人間なんているはずないもの」
「その無駄な自信ってどっから来るのか教えて欲しいよ」
「無駄ってなによ!」
痛っ! ツインテを振り回して攻撃するなコイツめ。
「まったく! さっき鴉羽雛乃が自分で言ってたじゃない。『悪い感情はあっという間に伝わってく』って」
「言ったけど、それが?」
「分からないの?」
首を傾げるアタシに、隼瀬さんは信じられないといった感じのジト目を向けてきた。
ワケも分からず見つめ返すと、呆れた様子でアタシを指さしひと言、
「あんたが弱気や不安を抱えてたら、それも相手に伝わると思わないの?」
「え」
言い放たれた言葉に、ハッとさせられてしまった。
「さっきから……いいえ、鴉羽雛乃はいつも他人の顔色を伺ってるけど、それって裏を返せば相手のこと全然信じてないってことでしょ? ちょっと何かあればすぐ自分を悪く言う、何かミスしたらすぐ自分を貶める。そういう人間だって思ってるわけじゃない」
「そ、そんなことは――」
ない、とは言い切れないかもしれない。
「あんたがそんな調子じゃ、その相手にだって信用してもらえるはずないじゃない」
「確かに……」
アタシ自身、上手くいくはずない、ンゴちゃんたちに分かってもらえっこないと決めつけていたところがある。
でももし逆の立場だったら、それってすっごく悲しい気分になるんじゃないかな?
隼瀬さんの言う通り、それじゃどんだけ真摯に話したところでンゴちゃんたちに気持ちが通じるはずもない。
「もちろん上手くいくかなんて分からないけど、鴉羽雛乃に必要なのはもうちょっと自信を持つことだわ。これまで自分がその二人と積み上げてきた友情は、些細なことで崩れたりするものじゃない。そう考えるのはおかしなこと?」
「……ううん。隼瀬さんの言う通り。弱気になり過ぎるのはンゴちゃんたちにも失礼だった」
どうやらアタシは今まで必要以上に神経を尖らせすぎてたのかもしれない。
友達だって言うなら、まずアタシが信じてあげなくてどうするんだ。ンゴちゃんもドルちゃんも、同じようにこの友情を大事にしてくれるはずだって。
な~るほどね。なんか色々と納得いったよ。
「確かにこんだけウザ絡みされてるのに、アタシ隼瀬さんのこと嫌いじゃないや。まゆが自信満々に、アタシはこの程度で嫌ったりしないって信じてくれてたからなんだねぇ……」
「そうそう……って、ウザ絡みってなによっ! せっかくまゆが構ってあげてるのにっ!」
照れ隠しでつい軽口を叩くと、プンスカ怒った隼瀬さんがまたツインテ攻撃を繰り出してきた。けど今度はそれをぱしっと受け止める(隼瀬さんが「ちょっと、髪を掴まないでよ!」とさらに怒ってた)。
「っていうか、何しれっと名前で呼んでるのよ!」
「いいじゃん、アタシのこともヒナでいいからさ。どんなキャラ付けか知らないけど、いちいちフルネームで呼ぶのいい加減疲れるでしょ?」
「キャラ付けとか言うなぁ!」
お、ちょっと赤くなった。図星か。
これ以上ツインテで攻撃を仕掛けようにも、片方をがっちり掴まれていては思うように首を振ることができない。
しばらく悔しそうにこっちを睨んでいた隼瀬さんだったけど、やがて自分を落ち着かせるように大きな溜め息をはぁと吐き出す。
「……分かったわ。あんたのことはヒナちって呼ぶことにする」
「こんなトコまで張り合ってくるか、このチビ……」
「ちびって言ったっ!?」
せっかく落ち着いたところなのに、瞬く間にヒートアップ。
まったくからかいがいのあるヤツだ。
「じゃ、アタシはまゆぴって呼ぶことにしよっと」
「そっちだって張り合ってるじゃない!」
「べつにいいでしょ? 可愛いじゃん、まゆぴ」
両手をぶんぶん振り回して抗議するまゆぴを笑いながらいなしつつ、アタシは明日、自分の正直な気持ちを二人に伝えることを決意したのだった。




