EX04F_鴉羽さんは話し合う
「実は二人に話したいことがあるんだ」
隼瀬さんに相談した放課後から一夜明け、翌日のお昼休み。
アタシはそう言ってンゴちゃんとドルちゃんの二人を、相談を受けた時と同じ踊り場に連れ出した。
「この前は言えなかったんだけど、アタシ先週臼木先輩に告られたんだよね」
勇気を出して告げると二人とも驚いた顔をしたものの、予想に反してそこまで大きなリアクションは出てこなかった。
「マジ? やっぱ上級生のあいだでも雛乃のことが噂になってたから……」
「それ、私も聞いたよぉ。先輩たちの中にもひなのんを狙ってる人、結構多いんだって」
そうなんだ? それは初耳。
だけど今は関係ない。アタシは二人に対して腰を折り、深く頭を下げる。
「ホントは相談受けた時に言わなきゃだったのに黙っててゴメン。フツーに断ったから先輩とは何もないけど、言い出しづらくて」
「や、それはもういいけど……今『二人に』話があるって言ってなかった?」
「うん、本題はそっち」
顔を上げ、ンゴちゃんドルちゃんに真剣なまなざしを向けた。
さぁ言うぞ。ここからが正念場だ。
「実はアタシ、二人から同じ相談を受けたの」
「えっ、紅香も?」
「るりりんもぉ!?」
今度こそのけ反るくらいに驚いた二人が、互いに顔を見合わせる。
その驚きが何か別の感情に変わっちゃう前に――畳み掛けろ!
「勝手にバラしちゃってゴメン! でもアタシひとりで考えててもどうしたらいいか全っ然分かんなくてさ……。でもどうしたいかはハッキリしてるから二人に話すことにしたんだ」
ごくり、と喉が鳴るのが自分でも分かった。
二人のことを信じると言っても、怖いものは怖い。けど、どんだけ無様でも何もしないで後悔するよりはずっといい。
大丈夫、アタシは鴉羽雛乃。誰もが羨むきゃわきゃわギャルで、みんなに好かれる人気者だ。
この二人だってアタシのこと大好きに決まってる!
「アタシはンゴちゃんともドルちゃんとも、この先ず~~~っと仲良くやっていきたい。二人のことはどっちも応援したいけど、こんなことで変なカンジになって欲しくないし、どっちかが臼木先輩と上手くいっても変わらない友達でいて欲しい」
言い切った! いやまだだ。この際だからもう全部ぶちまけてやる!
「いやゴメン。応援するって言ったけど、ぶっちゃけぽっと出の先輩よりアタシらの方を優先して欲しい!」
あまりにも自分勝手で自己中心的。
これ後になって冷静に思い出したら、絶対恥ずかしくなって後悔するヤツだ。今の段階でそれが分かるって時点で相当だ。
でももう言っちゃったんだから仕方ない。後は野となれ山となれ、二人にちゃんと気持ちが通じたと信じるだけだ。
「…………」
アタシの恥ずいカミングアウトを聞いた二人……というかその場は凍り付いたような沈黙に包まれた。
けど数秒が流れ、最初にドルちゃんが照れたように顔を背けて口を開く。
「いや……正直色んな感情が押し寄せ過ぎて全然整理できてないんだけど……とりあえず雛乃がヤバいくらいあたしらのこと好きなのだけはよく分かった」
「うん、なんか告白されたみたいでまだドキドキしてるよぉ……」
ンゴちゃんも自分の胸に手を当て、ぽっと頬を赤らめてる。
怒ったり呆れたりされるよりはいいけど、なにその反応! そっちまで恥ずかしがったら、アタシも素に戻っちゃうでしょっ!
「てか、何か雛乃ちょっと変わった? 言ってることだいぶエグいと思うけど」
「え、そうかな……そうかも?」
「そうだよぉ! 今までひなのんってうちらにもチョー遠慮してるカンジだったのが、言いたいこと言うようになったって気がする」
おっと、ンゴちゃんたちにもそんな風に見られてたのか。
そこで気を揉ませたりしてたのなら申し訳ない。
「ん~と、ひなのん的にはうちらみんな彼氏つくらないで、ずっと三人仲良くやってきたいってことぉ?」
「あ? いやいやいやっ、そこまで重いこと言うつもりじゃなくて……! 恋愛するにしてもわだかまりが残らないようにしようっていうか、一旦気持ちをリセットみたいな? いや何言ってんだろアタシ」
「本当だよもう」
そんなアタシのキョドり具合がよっぽど可笑しかったのか、ドルちゃんはつい耐えられないという感じでぷっと噴き出した。
それを見たアタシとンゴちゃんも顔を見合わせ、我慢をやめる。
いやもう、何やってんだってハナシだよね、アタシ。
しばらくそうやって笑い合っていたけど、やがてドルちゃんが目尻に浮かんだ涙をぬぐいながら「いいよ」と答えた。
「先輩のこと諦めたりしないし、正直紅香が上手くいった時おめでとうって言える自信はないけど、それでもあたしはあんたらの友達をやめたりしない。それでいいんでしょ?」
「ドルちゃん……!」
「うちもぉ、もしるりりんとセンパイが付き合ったらチョー嫉妬しまくると思うけど、ずっと仲良しだよぉ」
「ンゴちゃんも……」
二人がそう言ってくれたことに、つい目頭が熱くなる。
「あ、ありがと……! 二人とも!」
感激したアタシは、思わず二人まとめてがばっと抱き着いた。
ンゴちゃんたちも最初は驚いたものの、遠慮がちにそっと抱きしめ返してくる。
ンゴちゃんもドルちゃんも、本当にいいヤツ過ぎない……!?
「あはは、安心したらなんか力抜けちゃった。もしかしたら全部アタシの杞憂だったかな?」
「いや……多分、何も聞かないまま紅香も先輩を狙ってるって知ったら『何だよっ!』って思ってたと思うし、話してくれて良かったよ」
「うんうん。ひなのんのおかげで友情は守られたよぉ」
「も~、何クサいこと言ってんのさンゴちゃん」
「いや、あんたが言うな?」
ドルちゃんのツッコミに、改めて三人そろって笑い声を上げる。
怪我の功名っていうか、災い転じて福と成す?
今回のことで、この二人との仲はより深まった。そう感じるのは気のせいじゃないハズだ。
もう大丈夫。
臼木先輩とのことがどうなろうと、アタシら三人の友情にヒビが入ることなんてありえない……そう信じられるようになった。
これで問題は解決だ。
アタシもようやく、ほっと胸を撫で下ろすことができた。
「あ、でも本当にセンパイのことは恨みっこなしだよぉ? うち今回は本気の本気なんだからね、るりりん」
「いや、紅香は本気出さずにほどほどの方がいいと思うけど……佐藤のときも山田のときも、重すぎるって逃げられたの忘れたの?」
「あれはあの二人が根性なしだったんだよぉ! 臼木センパイは違うからっ!」
「臼木って、二年の臼木天馬のこと? そいつなら一昨日まゆに告ってきたわよ」
一件落着して教室に戻ろうかと階段を下りてる最中。
ンゴちゃんとドルちゃんが軽口を叩き合っていたところに、突然割り込んでくる声があった。
「まゆぴ? 何でここに」
「ヒナちが昨日まゆをほったらかして帰ったからでしょ! 結局訊こうと思ったこと訊けずじまいだったから探してたのよ」
「あー……」
そういや昨日は何か質問があって来てたんだっけ? メンゴメンゴ。
「……いやそれより! 今のって……マジ?」
「嘘言ってどうするのよ? もちろんまゆは断ったけど、そしたら次はC組の孔雀石琴子にいったらしいわ。どうも例のアンケートの上から順にアタックしてるみたいね」
興味なさげに語るまゆぴは、そう言ってやれやれとばかりに両手を広げた。
けどそれは臼木先輩に想いを寄せてるンゴちゃんたちにとって、衝撃的なスキャンダルだ。
「そもそもあのアンケート自体、臼木天馬が指示して鏑木翔也に作らせたものらしいわよ」
「……そう言えば鏑木は体験期間からソフテニ部行ってたっけ」
「そ。後輩を体よく使って一年女子の可愛い子を調べさせてたってわけ。そっちの二人も結構上の方に載ってたから、近いうちに来るんじゃない?」
そうかもしれないけど、そんな話を聞かされた後じゃ嬉しいはずもないだろう。
案の定、ンゴちゃんもドルちゃんも驚きと失望で頭を抱えながら俯いていた。
「ごめん……あたしちょっと具合悪いから保健室寄ってくわ。もしかしたら五時間目休むかもって先生に言っといて……」
「うちもぉ……」
哀れ生気の抜けた人形みたいにフラフラになってしまった二人は、そう言い残してトボトボと階段を下りていく。大丈夫かなぁ……?
ンゴちゃんたちの後ろ姿を不思議そうに眺めながら「何あれ。どうかしたの?」と首を傾げるまゆぴに、アタシは何とも言えない苦笑いで返事をしたのだった。
◆
「――鴉羽さん、鴉羽さん。そろそろ放してあげないとほら、隼瀬さんから魂的なものがまろび出そうだよ」
「ぐえぇ……」
「おっといけない」
昔の出来事に思いを馳せて、ついぼーっとしてたみたいだ。
古内裏の声で現実に引き戻されたアタシは、まゆぴにかけていたチョークスリーパー……じゃなくて愛情いっぱいのハグを解く。
解放されたまゆぴは軽く咳き込みながらキッと涙目でアタシを振り返ると、
「ちょっと、まゆの可愛さが失われたら世界の損失だって言ったでしょ!」
とキャンキャン猛抗議してきた。
「大げさだな~、別にそんな強く締めてたワケじゃないでしょ?」
「無駄にでかいこれのせいで押し付けられるのよっ、これのせいで!」
頭に怒りマークを浮かべたまゆぴがむんずとアタシのおっぱいを鷲掴みにする。おいコラ無駄とは何だ、お前が狙ってる古内裏だってコレが大好きなんだぞ。
「まったく、ヒナちは少しくらい昔の謙虚さを思い出すべきだわ……」
「ん? 中学の頃から結構デカかったと思うけど」
「胸のことじゃないわよっ! せ い か くっ!」
あはは、まぁ分かってるけどね?
「性格って、他人の顔色ばっか伺うなって言ったのまゆぴじゃん」
「そんなこと言ったっけ……? それでこんな怪物を生み出したんなら、まゆの中学時代最大の失敗だわ」
「逆、逆。まゆぴが唯一輝いてた瞬間だったよ」
「まゆの輝きがそんな一瞬なはずないでしょっ!?」
やいのやいのと喚き散らすまゆぴを、アタシは笑いながら適当にあしらう。
ま、感謝はしてるよ。あの時まゆぴが相談に乗ってくれたからいろいろふっ切れたトコあるしね。
もっとも、本人に言ったら間違いなくチョーシ乗るから絶対に言わないけど。
それでも、あの時のまゆぴがちょっと輝いてたのは、嘘偽りのないアタシの本心だ。




