EX04B_隼瀬さんは張り合いたい
「ねぇ、鴉羽雛乃ってこのクラスよね?」
開けっぱなしのドアから唐突に名前を呼ばれ、アタシだけじゃなくクラス中の視線がそちらに集まった。
そこにはお人形みたいに可愛いちっこいのが不機嫌そうに眉根を寄せた表情で立っていた。
縦に巻かれたツインテールに、黒革チョーカーやシルバーの十字アクセをジャラつかせたゴシックパンクな出で立ち。ちょっと病んだ感じのメイクでじろりと教室内を見渡す様は、小柄ながらになかなか独特な存在感を放っている。
突然のゴスロリというか地雷系ツインテ女子襲来に、アタシ含めクラスメイトのほとんどが固まっていた。
そんな中、誰よりも早く我を取り戻したのはドルちゃんだ。
「何? 今ちょっと立て込んでるんだけど」
初対面の相手にどうなの?ってくらい不機嫌さを滲ませながらツインテ女子に問いかけるドルちゃん。
だけどツインテ女子は臆した様子もなくドルちゃんに視線を返した。
「うちのクラスで変なアンケートが出回ってて、そのことで文句言いに来たのよ。あんたが鴉羽雛乃?」
「いや違うけど。それなら丁度その話してたとこ」
そう言ってドルちゃんはアタシに視線を送る。釣られてツインテ女子もアタシを見る。思わず愛想笑いで返すと、なんとツインテ女子はつかつかと教室内に踏み込みこっちに近づいてきた。
ちょっと待ってよ、もう他のクラスに飛び火してんの? それじゃますます丸く収めるの難しいじゃん!
つーか文句あるって、なんでアタシに? アタシがこのクラスで一番目立ってるから? 他のクラスと波風なんか立てたく無いのに、なんでこうなるかなぁ~……?
とうとう目の前まで来ると、ツインテ女子はちゅーでもすんのかって距離感で無遠慮にアタシを観察した。
ただその様はアタシに怒りを向けているって感じじゃなくて、心底不思議そうな様子だ。
あまりの居心地の悪さにたまらず身を引く。
「え~っと……ゴメン、誰だっけ? てかアンケの文句って何? いやアタシに言われても困るんだけどさ」
「決まってるでしょ。これよこれ」
問われたツインテが取り出したスマホには、ンゴちゃんが見せてきたのと同じアンケートの集計画面が表示されていた。
そこに並んだ一位と二位の名前を指さし、納得いかないとばかりにツインテ女子が声を張り上げる。
「なんであんたがまゆより上にいるのよ! 確かにそこそこ見た目いいけど、絶対にまゆのが可愛いのにっ!」
「…………はぁ?」
いや文句って……そっちかーいっ!!
あんまりにもスットンキョーなツインテの主張に、たぶん教室中のみんながそう思っただろう。
言動から察するに、この子がアンケート二位の隼瀬舞弓さんか。
「こんなの何かの間違いよ! やり直しを要求するわっ!」
両手をぐっと握ってプンスカ怒る隼瀬さん。怒ってるのに動きもなんだか子供っぽくて可愛いのはだいぶズルいと思う。
「いや、やり直しって言われても……そんなん一部の男子が勝手にやっただけだし……そもそも今、そういうの良くないよねってハナシしてたんだけど。隼瀬さん?は勝手にアンケ取られて嫌じゃないの?」
「くだらないとは思うけど、それとこれとは話が別よ! 結果が出た以上、負けっぱなしじゃいられないわ。誰に言えばもう一度勝負できるわけ?」
「だ~か~ら~……もっかいやらせないために今話し合ってるワケで……」
「そんなのまゆには関係ないわ!」
「も~~~っ、清々しいくらい自分勝手!」
愛らしい見た目とは裏腹にキャンキャンと強気で喚き散らすその姿は、まさに狂犬ポメラニアン。
それから昼休みが終わるまで、納得する気配のない隼瀬さんを相手に延々と無意味な問答を繰り返すハメになった。
唯一良かったのは、そんなアタシの姿を見たドルちゃんが鏑木にぼそっとひと言問いかけ、
「鏑木、これでも迷惑かけてないって言える?」
「ああ……悪かったよ……」
ドン引きしていた鏑木が形だけでも謝ったことで、我がクラスの揉め事は一応丸く収まったことだろうか。
◆
それからというもの、隼瀬さんはことあるごとにアタシの前に姿を現しては、どーでもいいようなことで張り合ってきた。
基礎科目小テストが戻ってきたらソッコー点数を聞きに来たし、体力測定の時は一種目が終わるごとにいちいち自分とアタシの結果を見比べる。
ンゴちゃんドルちゃんの推薦でアタシがクラス委員になったと聞くや自分も立候補し、クラス交流会の準備に駆り出されたら隼瀬さんもいて、アタシより多くの荷物を運ぼうとちょこまか走り回っていた。
極めつけはゴールデンウィークの直前。体験入部期間も終わったバスケ部の自己紹介で――
「一年A組の鴉羽雛乃です。バスケは小学校で地域のクラブに入ってました。ポジションはポイントガード希望です」
「経験者は頼もしいね。ウチ人数少ないし去年スタメンだった先輩が卒業しちゃってポイントガードは空席だから、即戦力として期待しちゃうよ。それじゃ次の人――」
「一年B組の隼瀬舞弓よ。未経験だけどまゆもぽいんとがーど?になるわ。絶対鴉羽雛乃に勝つんだからっ!」
新入生が一列に並ぶ中、立ち上がって自己紹介を済ませた隼瀬さんがこちらを見て「ふふん♪」と得意げに笑う。
いや、今のどこにそんな自信満々になる要素があった……?
煩さしさより先に呆れて笑っちゃいそうになる。
その場を取りまとめていた先輩も、
「や、やる気は十分だね。でも未経験でいきなりポイントガードはちょっと難しいんじゃないかなぁ……」
と若干引きながら苦笑していた。




